「特にコレといった出来事・事件は起きない。介護する父の病への悲しみ、仕事、子育て、新たな恋の喜び。 ある女性の娘・母親・恋人としての心の機微が描かれる。」それでも私は生きていく マサヒロさんの映画レビュー(感想・評価)
特にコレといった出来事・事件は起きない。介護する父の病への悲しみ、仕事、子育て、新たな恋の喜び。 ある女性の娘・母親・恋人としての心の機微が描かれる。
サンドラ(レアセドゥ)と恋人クレマンに対する娘リンの振る舞いが好ましく感じた。サンドラがクレマンを初めて家に連れて来た時、ママの新しい恋人を品定めするような様子が面白かった。 別の日、ママのベッドに潜り込んだらクレマンが来ていて、クレマンを見てケラケラ笑い出したところも良かった。「ああっ、ママと~してたんだあ」と思ったかどうかは分からない。
8才だとさすがに「ママにはママの人生がある」とまでは考えないだろうが、少なくともママに新しい恋人ができて良かったとは思っているのだろう。だから「ママを新しい恋人にとられちゃったみたいでさみしい」なんて話にはならない。逆にサンドラのほうが、林間学校に行ったリンから連絡がなくて、娘がママがいなくて寂しがらないのがちょっとさみしいと言ったりする。別に8才で自立して親離れしなくてもいい状況だし、親離れ・子離れという話ではない。 林間学校が楽しくてしょうがないだけだと思う。
これが日本だとサンドラが娘に 「リン、クレマンが新しいパパよ」なんて言ったり、娘も「私のパパは死んじゃったパパだけ、新しいパパなんていらない」なんて言ったりして、僕にはとても違和感があるセリフと展開があるが、フランスでは当然そんなことにはならない。娘リンにとってクレマンはママの恋人で、新しいパパだなんてことにはならない。
主人公サンドラは、現在、不幸ではないが幸せに満ちているわけでもない。映画の展開でも特にすごい不幸な出来事や、悲惨な事件は起きない。 きっとサンドラにしたら「まあ人生には、楽しいこと悲しいこと、良いこと悪いこと色々あるが、コレからも私はこんな風に生きていく」 って感じだ。だから日本語の題名の 「それでも」 は少し大げさで、「そして私は生きていく」が映画の内容に近いと思う。
原題 un beau matinは、 「ある晴れた朝」、または 「ある朝」、 「素晴らしい朝」 。 たぶん最後に3人で風景を眺める場面から付けたような気もするが、あの場面は朝じゃないかもしれないから違うかもしれない。
2023/5/31(水)高島屋kino cinema,6/1(木)吉アップリンク