「戦時中の心理描写がクドくなくハッキリしていていい」ゴジラ-1.0 beeさんの映画レビュー(感想・評価)
戦時中の心理描写がクドくなくハッキリしていていい
主役であるゴジラの存在感をそのままに、それと戦う人々へ感情移入させてくる手腕が見事だと思う。
旧作の司令塔視点ではなく、現着する方々に焦点を当てることでゴジラとの距離感がより近くなり恐怖を煽ると共に、彼ら一人一人が命ある人間だということを克明にした。
また、シリーズ間でのゴジラが何を餌として何故を襲ってくるのかも筋がキチンと通っている。
また子供でも観れるように戦時難民や退役兵のグロ描写を省いたのも英断であると思う。
わかりやすくしなくとも退役兵についてのトラウマや身体欠損、徴兵制度についてはちょっと考えればわかるだろうし、あまり克明にすると娯楽映画としての域を踏み外す可能性がある。
少なからず現状でも戦地に赴く者が身近にいるアメリカで喝采されたという時点で兵士の心象やトラウマによる発作のリアリティは証明されてるのでこれ以上は過多という事だろう。
異議無し。
さて、内容だけでなく今回はゴジラの絵においても非常に上手く大衆向けに落とし込んでいる。
本来は薄暗い現実を僅かに橙強めのフィルムで配色したことで、これからは良くなる筈の未来への期待感を現した上で、それについて行けない実際に暮らしている人々の心境を家の中の明かりで表現する手腕。主人公のトラウマや希望をハッキリと明暗に分けたことで戦争を知らない者にも嫌な空気を察せられる出来映えはとても上手い作りである。
ゴジラ出現時の波も中々に見れたものだった。
役者の芝居は当然として、船の者達の配役がわかりやすい。
船を一つの身体として見る為に上下関係が然程厳しくない海兵だった船長の陽気さと、その部下の戦争未経験であるが故に突っ走るゲーム脳、博士の(恐らくは)内地勤務であったからだろう引け目を感じさせる物言いが、ガッチガチに空軍で苛め抜かれて特攻隊にされた敷島の鬱屈し歪曲した精神を引き立てる。
陸軍?出るわけ無いだろ死んでるんだから。
情報を持っていれば持っているほど察してしまい辛くなる彼らの時代に、ゴジラ出すとか…鬼畜の諸行する監督であるがまあまあ大衆娯楽映画という事でなんとか上手く誤魔化しきったかなぁという所。
ラストの意味深な痣やなんやもキチンとゴジラのパターンを外さないので、筋が通っていてよかったと思う。
まあ、強いて言えば衣装が借り物なのか全然汚してない綺麗なままで、そんやわけあるかいと違和感凄かったくらいですかね。