劇場公開日 2023年11月3日

「怪獣映画にエモーショナルなヒューマンドラマを入れたのは新しかった。」ゴジラ-1.0 あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0怪獣映画にエモーショナルなヒューマンドラマを入れたのは新しかった。

2024年5月3日
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これはとてもよかった。
山崎貴監督作品はわかりやすさが最優先されており、誰がどこでなにをしているのか、というのが非常に明確だし、ストーリーがどのように進んでいくのかも明確だ。そして、観客が観たいものをそのまま出してくる。
このセンスはどこから来るのだろうか。

本作は、1945年から物語がはじまる。
特攻兵の敷島が零戦が故障したといつわって、小笠原諸島にある大戸島という守備隊基地に不時着する。
そして、その島にゴジラが現れる。敷島は零戦の機銃でゴジラを撃つように頼まれるが、怯えて撃てない。彼の目の前で整備兵たちが次々と殺されていく。
生き残った敷島は本土に戻る。彼は特攻から逃げ、ゴジラとの戦いからも仲間を見殺しにして逃げた。闇市で出会った女性と、彼女が連れていた赤ん坊を成り行きで養うことになり、ようやく生活が落ち着いてきたが、戦争のトラウマは抱えたままだ。そして、再びゴジラが現れる。

本作は敷島という兵士が自らのトラウマと対峙する物語だ。
怪獣映画であるゴジラに、ヒューマンドラマをからめたところが新しい。ゴジラが暴れるところを描きたくて撮るんだけど、観客を呼ぶためにヒューマンドラマをからめた、という感じだ。このやりかたはクリストファー・ノーランの「インターステラー」と同じだと思う。あの作品は、ハードSFをやりたいんだけど、それだと売れないからヒューマンドラマをからめたのだと思う。

なお、本作は主演の神木隆之介をはじめ、みんな大げさな演技をしていて嫌だったのだが、よくよく考えてみると、今は観客がyoutubeを観ているから、注目を集めるための演出に慣れているし、早送りで視聴したりするから、演技を過剰にしておかないと演出が伝わらないのだと気がついた。個人的には繊細な演技を観たいのだが、それでは売れないのだろう。

なお、ゴジラは原爆のメタファーだということになっているが、本作では冒頭で、島の言い伝えでゴジラという怪獣がいる、という話が出る。原爆は第二次世界戦の際にアメリカが作ったもので、本作は1945年からはじまる。なぜ、それ以前からゴジラの存在が知られているのだろう。ゴジラを見たものはいない、という設定であれば問題ないので、その旨を説明したほうがいい。

不思議なのは、日本人は原爆の恐怖について語り、映画「オッペンハイマー」に原爆投下のシーンがないと言って怒った。
では、なぜ原爆のメタファーであるゴジラが東京破壊すると喜ぶのだろうか。本作ではゴジラが熱線を吐くシーンは二回ある。一回目はキノコ雲と黒い雨が降ったので、山崎監督もそのつもりで演出しているのだろう。二回、という数字は広島と長崎を意識しているのだろう。
ゴジラを明確に原爆として描いているのは、本作が反戦映画だからだ。
世界で戦争が起こっており、核を意識した映画がやたらと世に出ていることからも、悪い意味で核がトレンドになっている。
この点では、本作も現代という時代を反映したものであり、制作の意味づけはここにあるのだと思う。つけくわえるなら、「国は守ってくれない」と市民が団結してゴジラに立ち向かうシーンがある(ノーランの「ダンケルク」っぽい展開になっていて、なぜこんなにリンクするのだろうとは思うが)。これも現在の政府に対する国民感情を反映しているのだろう。
話を戻すと、日本人がゴジラを観て喜ぶのは、これが反戦映画である以前に怪獣映画だからだ。それは言うまでもないのだが、だったら「オッペンハイマー」も、ひとりの物理学者の伝記として楽しめばいいではないかと思う。

製作費は15億~22億円。興行収入177億円とのこと。山崎監督の他のヒット作だと「STAND BY ME ドラえもん」(280億円)、「永遠の0」(120億円)と、過去作の中でもかなりのヒットと言える。
参考までに近い時期の話題作の世界での興行収入をピックアップしておくと、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(2,000億円)、「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」(1,000億円)、「君たちはどう生きるか」(260億円)、「THE FIRST SLAM DUNK」(230億円)、「すずめの戸締まり」(200億円)といったところ。こうしてみるとわかりやすいだけではまだ足りないのかもしれない。

それにしても、個人的には本作のゴジラは動作はややぎこちない(コロッケの「ロボット五木ひろし」に似ている時がある)が、破壊のアクションや熱線放射のスタンバイに入る際のビジュアルなど、今までのゴジラで一番納得のいくものだった。そういう点でも山崎貴という監督のすごさを感じつつ、つくづく作家性が見えない人だなとも思う。

あふろざむらい