「戦争に敗けた鬱憤をゴジラの駆逐で晴らすな」ゴジラ-1.0 とびこがれさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争に敗けた鬱憤をゴジラの駆逐で晴らすな
大阪ステーションシネマにて、遅ればせながら観賞してきました。2023年11月3日封切りでもう5ヶ月を超すロングランですね。着ぐるみじゃない完全CGで、視覚効果賞のオスカーを獲ったゴジラとあらば、流石にスクリーンで観るしかない。
1945年の大戸島の時点で大興奮。深海魚が浮いてくると呉爾羅が現れるという伝承のある島で、戦時は故障した航空機の不時着所となっていた。1954年にはじめてゴジラが観測されたと思っていましたが、今作で1945年にすでに観測されていたことが明らかになりました。それで-1.0か。エピソードゼロでもないしね。ゴジラは1945年時点では大型恐竜くらいの大きさであり、1946年のビキニ環礁水爆実験の影響であの50.1mの大怪獣サイズになったと。
巨大化前の口で人間を咥えて振り回す様はジュラシックパーク的で、やはり未成熟のゴジラという感じ。しかしこのシーン、噛みちぎらずに投げる、投げる。そして翌日布をかけられたご遺体もいやにきれいでした。これは別に文句言いたいわけじゃないけど。グロ描写に弱い人のための優しさかなー。時代だなー。
とはいえ敷島に絶望と悪夢を植えつけるには十分な出来事でした。特攻隊として出発しながら、生きて家族のもとに帰る方が重要だと判断した敷島は間違ってないと思います。けれど同じく家族がいる仲間たちが特攻して死んでいき、嘘をついて一人だけ免れた自分を卑怯だと責める気持ちは消えない。大戸島に逃げ込み何も語らず時が過ぎるのを待つつもりが、あの夜あの惨劇を目の当たりにしてしまう。自分のせいだ、自分は生きてちゃいけない人間なんだ…。「図々しく生き延びた、この恥知らず!」澄子さんは吐き捨ててくるし…
まあでも2年後くらいには、澄子さんも反省したでしょう、なんであんなこと言ったんだろって。戦時は人々の感覚や価値観が狂っていたというのがよく描写されてたんじゃないでしょうか。敷島はマトモですよ。
俺の戦争は終わってない云々はよくわかりませんでした。言いたいことわかるようなわからないような。要は国への帰属意識があり、敗戦と共に「敗けた。俺は役に立てなかった。のうのうと生きていて恥ずかしい」という気持ち。役に立ちたいという気持ちなんでしょう。わだつみ作戦の人たちも「今度こそ役に立ちたい」とか言ってたし。アメリカから国を守れなかったが、ゴジラから国を守ることができれば、誇りが回復できるという。戦争直後は戦時のメンタリティーを引きずっているということなんでしょう。
そう考えると、ゴジラは自然災害ではなく、襲いくる「敵」なんですね。最後に敷島が特攻作戦を成功させ、なおかつ生還したというエンドは、戦時の価値観と戦後現代の価値観を満足させるいいとこ取りの結末だったと言えます。敷島や橘もこれからは前を向いて歩いていけるでしょう。絶対これから仲良くなりますよあの二人。典子も生きてたしね。
いやー身勝手ですねー。そんなものの捌け口にされたんですか、我々のゴジラは。ゴジラはね、無垢な海底生物なんですよ、ちょっとデカいだけの。大戸島では恐れられると同時に崇められてたはずです。1954年時点では、呉爾羅の怒りを鎮めるために生娘が生け贄にされましたが、それも人間が勝手にやってたことだしね。神性生物として人間が勝手に崇めてるだけの野生生物。奈良公園の鹿みたいなものでした。
それが人間の水爆実験で肥大化させられて、熱戦を放つようになっちゃったんでしょ。熱戦を撃つのも辛いですよきっと、ホントはやりたくないんじゃないかな。
まあでもゴジラが東京に上陸するなら、駆逐するのは当然ですよ?黙って破壊されることはない。黙って駆逐し静かに黙祷を捧げるべきです。若しくはアメリカの水爆実験に罪があり、日本に罪はないとする立場をとるなら、ゴジラへの哀れみと共にアメリカへの怒りをもって本作戦を遂行するべできですよ。
ゴジラが青い光を放ちながら朽ちていくシーン、感慨がなかったですね。それもそのはず、皆ゴジラが何なのか考えてなかったからです。なんかわからんけど死んだわ、よかった、みたいな。敷島に至っては、考えて反省し意味付けをするべき対象はまず戦争ですよ。澄子さんとの軋轢も、自身を責める気持ちも戦争に由来します。戦争を決行した日本政府、その軍部、それからアメリカ、そして世界、人間。それらについて振り返り、意味付けをすることで、これからの人生の展望、為すべきことが見えてくるはずです。それらの論点をゴジラとすり替えて、ゴジラ駆逐によって解決したと思い込んでしまった敷島は、どこかでまた壁にぶつかります、必ず。だって何も解決してないもん。
まあ戦時に大戸島でゴジラに遭遇して、問題がぐちゃった敷島は不運ですがね。戦争は人災、大戸島のゴジラは天災、銀座のゴジラは半分天災半分人災(アメリカの水爆実験のせいとも、人類共通の罪とも言える)、ややこしいわな。
戦争のやるせなさをゴジラの駆逐で解決した気になってしまうあたり、なんか日本だなって気がします。問題を取り違え、やってる感で満足してしまう感じ。そういう意味で、しっかり日本映画でしたね。
スッキリしてませんよ?私は。続編作ってくださいね、山崎監督!