「あんまり真面目に見ないと面白い」ゴジラ-1.0 あさんの映画レビュー(感想・評価)
あんまり真面目に見ないと面白い
良かったこと
・やりたいことがきちんとあって、そのために設定を肉付けして、それをきちんと処理したこと(作品として成立してること)。
・既存のゴジラやシン・ゴジラと差別化したうえで、ゴジラ映画の多様化に貢献したこと。
・ゴジラのテーマを大音量で流しながら、特撮(過去作品)ではできない規模のゴジラによる破壊とその恐怖を描写したこと。
悪かったこと
1番 ゴジラ自身が人類の犠牲者としての側面が弱い
人類の原罪と(ゴジラを介して)人類自身が向き合うのがゴジラ映画の根幹であるはず。怪獣映画としてエンタメに振ったゴジラ作品なら、それはそれでいいし好きだけど、-1.0はそうじゃないのに、ゴジラというよりは災害との戦い映画になっちゃってる。
ゴジラは神的存在であって、人類の犠牲者であって、人類の敵であって、それでも子供が見てかっけーとなる、そういった多面性があっていいヤツ悪いやつで簡単に括れない。そこが魅力だと思うのに、それが出てないのは残念。
2番 エンタメ性の弱さ
これはジャンルの問題だけど、特撮ものSFものじゃないから、とにかく戦闘が地味。戦闘をエンタメにするか泥臭いものにするかは自由だけど、それが中途半端。戦闘の展開はこれでいいから(ジャンル的にも)、カメラワークや台詞といった演出でもう少し盛り上げられないかなと思った。
最後の一撃が呆気なさ過ぎて、「え、これで終わり?」ってなった。
隣に子連れがいたから、もう少しエンタメしてくれたほうが良いのにな~、子供たちごめんね〜と思いながら見ることに…
アメリカゴジラほど徹底的にエンタメに徹せず、日本らしい宗教観が漏れ出てしまうような日本のエンタメゴジラを次は見たい。
ゴジラの映画をやってくれたことはありがたいし、こういう大人向けにして監督の知名度で動員を稼がないと儲からないのはわかるし、そういうゴジラがあってもいいけど、エンタメであること、子供を喜ばせることを忘れてほしくない。
3番 時代設定の割に現代的思考な脚本
終戦直後という時代設定は、今の人には再現不能でやっぱり無茶だったなという印象。初代ゴジラが終戦直後の雰囲気を今に伝えているだけに、これは手出しできないよ…
民間人を出すための無理くりな設定として、これ以外に無いのはわかるけど、時代的にセンシティブなところに手出ししちゃったねという感じ。
基本的にゴジラと対峙するのは国家的組織であるべきなのを、民間人の有志にさせたいがために終戦直後の権力の空白期間を使っている。命がけのことを民間人の有志でやるというのは、一見すると民主主義的で個人の意志を尊重しているように見えるけど、極めてグロテスクで無責任な行為でもある。と思う。
戦時中のグロテスクな国家第一主義、特攻と対比させながら、有志の戦闘行為を肯定的にきれいな行為のように描く、そう思うように視聴者を誘導するのはどうかと思う。初代ゴジラは特攻が日本を救うという話で(当時)叩かれて、今作ではそれを回避しようと現代的(戦後民主主義的)な価値感を入れたものの、僕にはそれが良いことには見えない。
軍隊が国民から付託されて戦闘行為を担っていること、軍人一人一人の命がけの行為(と命を奪う行為)を間接的に国民一人一人がお願い・命令・許可していること。それが国民国家の軍隊の前提のはず。
作中で「誰かが貧乏くじを引かなきゃ仕方ない」と何度も言われていたけど、それを引く(国民が引かせる)ための仕組みが軍隊であって先人はそれを整備してきた。
戦前はその整備が至らなかったという反省はするべきだけど、人が人に命を掛けさせるための仕組みがあるのに、それを無視して民間人が個人的に命を賭けることを肯定するというのは、究極の個人主義というか集団主義アレルギーでかつ、日本国民の他人(自衛隊員)に命を賭けさせてることへの無自覚さが垣間見えてしまう。
戦闘に赴く登場人物は一切を秘密にしていくから、周囲から応援されることもないけど(戦時中の強制的な動員を想起させるため避けたのだろう)、それ自体が間違ってる(本来は集団の付託が必要)ことだとは全く言われない。
結局、勝手に戦って勝手に死ね。それはお前らの自由だ。という身も蓋もない話を肯定的に描いてしまってる。
まだ、登場人物が命がけの行為に否定的だったりすると良いんだけど「仕方ない」の一言だけ済ませるもんだから、僕としては腑に落ちない。
主人公はまだ個人的な動機でやってるから分かりやすくて良いんだけど、復讐ものでよくある、「これは俺の戦いだ、お前らは出てくるな」的な回りを危険から遠ざけるような発言は一切無くて、みんなの作戦に全乗っかりしてるから、結局同じ穴のムジナで構成員の1人でしかない。
ゴジラ-1.0自体が、この100年の日本の国家的失敗(戦前の軍国主義とその反動としての無思慮な戦後民主主義)が生んだ怪物なのかもしれない。