「幸せを拒み続ける元特攻隊員を描く」ゴジラ-1.0 頼金鳥雄さんの映画レビュー(感想・評価)
幸せを拒み続ける元特攻隊員を描く
ゴジラは怖いし、VFXも素晴らしかった。でも今回はそれらに劣らず人間ドラマが良かった。戦争による心の傷と後悔で、幸せを拒み続ける元特攻隊員のお話でした。彼が再生しようと立ち上がるたびにゴジラが立ちはだかり、さらに絶望へと追い込む。特攻で死に損ねた彼の選択とは…。
ゴジラを見るのは1984年版以来でした。84年版は当時でも約10年ぶりのゴジラ作品で原点回帰作。人類に破滅をもたらす脅威の存在でした。子ども心にものすごく怖かったのを覚えています。ただ、その後は怪獣映画全般に興味を持てず、ゴジラもモスラもガメラも素通りでした。今作は予告編に興味を惹かれましたが、山崎貴監督なので見なくていいや…という気持ちに…。だってゴジラは主人公の見た悪い夢でした~♪VRでした~♪なんてことになったら嫌じゃないですか(笑)。ところが映画.comの星は悪くないし、知人が口をそろえて「面白かった」「映画館で見たほうが良い」というのです。それで一転見ることに。
CG?VFX?すごい。ハリウッドに引けをとらない。キムタクヤマトでも「すごいな、日本も頑張ってるんだな」と思いましたが、今は輪をかけて進化してますね。ゴジラの波打つうろこ、機雷攻撃の後に再生する皮膚、熱線を放ったあとまだ口の周囲が燃えている表現。ゴジラはまさに生きている。動く災害なんだと。84年に見たあの恐ろしいゴジラの再来なんだと。すっかり夢中になりました。人類のために異星人だか怪獣と戦うぬるいゴジラなんかいらない。ずっと人類の脅威でいてほしい。恐ろしく、絶望的に強く手ごわくしぶとい。そんなゴジラ好きがです。
それから人間ドラマ部分。主人公は特攻隊員ですから、元から優秀なひとであったのでしょう。しかし作中では復員兵の一人にすぎません。戦争にゴジラに翻弄され、市井の一人。それでも生きていく。生きていかねばない難しさ、尊さ。死を賛美することはない。だけど死んでいった兵士たちをあざ笑うこともない。絶妙なバランスで命の大切さを説いた作品です。正直、震電の操縦をレクチャーするシーンで、その後の展開は読めてしまいましたが、予想が当たってこんなに嬉しかったことはありませんでした。
キムタクヤマトやヤマト復活編では、あたりまえのように特別攻撃が出てきて、「独身者の命ってそんなに軽いの?」「簡単に死を選べというの?」と幻滅したものですが、この作品は違います。山崎貴監督と言えば、元になった作品のファンをないがしろにする映画ばかり撮る…という印象があったのですが、これは素晴らしいの一言です。お勧めします。
個人メモ
X(旧Twitter)で、GIの姿が描かれない、歴史の捏造だ、何らかの政治的意図だ、陰謀だ…という意見が散見されましたが、主題はそこにないので詳しく描写しなかっただけだと思います。