劇場公開日 2023年11月3日

「観た後も想像をかき立ててくれる映画」ゴジラ-1.0 びっころさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0観た後も想像をかき立ててくれる映画

2023年11月7日
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鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

映画館を出て素直に良かったな、と思えた。突っ込みどころは満載だけど、新しいゴジラとしては好き。昭和のゴジラをカラーで現代の技術で見せたら面白いだろうとは思っていたし、変に軽くしたり神格化したりせず思い切って戦後の重いテーマを描いてくれたのは個人的には良かった。原点に返った、というか。そして観ながらふと思ったことは、これはもしかしたら敷島の死後の世界、或いは夢の出来事では?という解釈。劇中でも何度もこれは夢ではないのか?現実なのか?と問う場面があるが、そこから暗示もあり、これを彼の死後の世界、あるいは夢、ととらえると、色々なところが腑に落ちてくる。

先ず特攻隊の生き残り、というか戦闘機が故障したと嘘をついて大戸島に来たという主人公(このことの賛否はおいておいて。この時代、この状況ならこの選択は最善だったかもしれないが)目の前に古代の恐竜的小型ゴジラ(あまりにもジュラシックパーク的!)が現れても機銃を撃てないという小心者。こんな気の弱い若者が、あんなに異常に巨大化して途轍もない熱線を吐くゴジラに立ち向かう勇気があるのかという疑問。また銀座の大混乱の中でばったり彼女に会えるというどう考えても無理な偶然。歩く核爆弾みたいなゴジラに対して、ソ連との関係を考えて米国が手助けしないという余りにも非論理的な設定。そして水中に沈めてから浮かび上がらせるだけという単純な作戦が成功してしまうというあっけなさ。殆ど試作機のみだった震電を登場させるあたりも、戦闘機乗りの夢。

これらを納得させるには、敷島が大戸島で実は最初のゴジラに襲われ死んだ、或いは気を失ったままなのではないかという解釈。そしてその後のご都合主義的なストーリーと自己完結的な、敷島にとって自分が最大のヒーローとなって、さらには敷島が作り上げた想像上の死んだはずの美女と再会するという夢のような幕引き。すべてが彼にとっての願望のような、自らのどうしようもない弱さをひっくり返して、こうであれば良かった、という願望がそのまま死後の世界、或いは気を失ってる間の夢、彼自身が作り上げた世界なのではないか。

批判的なように書いたが、このように考えると、ゴジラの意味が変わってくる。ゴジラはあまりにも弱い自己の裏返しとして(フロイトじゃないけど)想像できうる限りの恐ろしい怪物として創造し、そしてそれを自らの力で倒せたら、という弱さの裏返しの願望、幻想を描いたのではないか。こうすると非現実的な様々な設定が、うまく収まってくる。まあ、夢にしちゃえばストーリーなんて何でもありなんだけども。

もし、私なら、最後に典子に病院で再会して目をつぶって開けると、無人の大戸島にいた、、、みたいな結末にする。かなりひねくれてますな。最後のゴジラ再生はやや陳腐であれは余計だったかな。

CGは大戸島のゴジラも巨大化したゴジラもハリウッド的。このあたりの好みは分かれるだろうけど、私はシン・ゴジラのように無表情なゴジラがいいな。

と言いつつも、難しいであろう水の描写も見事だし、銀座の破壊シーンはなかなかのもの。全体的な色合いもダークで少しセピア?カラーのような、時代を敢えて感じさせてそれも好みだった。

銀座のシーンで一瞬亡き大杉漣さんが叫んでいるように見えたのは錯覚かな?シン・ゴジラへのオマージュか。

音楽はモダンでミニマルな感じにまったくテイストの違う伊福部さんの音楽が混ざって何ともいえない混淆、ただよく考えたらゴジラのテーマはミニマルミュージックだな。ゴジラのテーマの演奏はどちらかというと速めで、かつ綺麗でシャープな感じで、伊福部さんの持つ土俗的味わいを弱めて洗練された春の祭典みたいな感じ、ただこれはこれで格好良かった。

ゴジラの声はだいぶこだわったようでなかなかよろしい。あと、足音、これは重要ですね、恐怖感をジワジワ高めてくれる。

ということで、観た後も想像をかき立ててくれる映画として、星5つ。

びっころ