「-1.0(マイナスワン)の理由」ゴジラ-1.0 MP0さんの映画レビュー(感想・評価)
-1.0(マイナスワン)の理由
公開翌日に観て来ました。特別、ゴジラファンという訳ではないのですが、初代からデストロイヤー、ハリウッド版のGODZILLA、庵野ゴジラ辺りは観ています。
好きな対ゴジラ兵器はビオランテ戦に出てきたスーパーX2(ゴジラの熱線を跳ね返す)です。
実写映画で上映が終わって拍手が聞こえてきたのは久しぶりという感じでしたので人によっては大満足な出来だったのかもしれません。
私自身も約2時間、集中して観れ、迫力ある映像と音響を楽しませてもらいました。序盤の頭からガブリ…は恐怖でした。
タイトルの『ゴジラ-1.0』が発表された時、正直ハテナ(?)でしたが確かにマイナスワンと呼ぶに相応しい作品だったと思います。
☑️敗戦からの復興期の日本に壊滅的打撃
☑️ソ連を刺激しないためにGHQは協力できない
☑️戦後直後で兵器が限られている
☑️特攻隊から逃げて生き延びた主人公
☑️血縁もない孤児とそれを託された女
☑️戦争で死ねなかった人たちの戦争のリベンジ
☑️深海に引き摺り込み水圧でやっつける海神作戦
監督が『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズや『永遠の0(ゼロ)』などを手がけた山崎賢監督という事で、この時代の空気感を描かせたら右に出る監督はいないでしょう。
終戦からゴジラの再出現までの描写、復興していく街並み、決して豊かではないけれど温かみを感じる隣人や家族がすぐ側にいる暮らしぶり、暮らす家を建て替えた時の雰囲気が昔、祖父母や親戚の家を訪ねた時のような間取りや空気感で昭和世代にとっては原風景のようにノスタルジーを感じるかもしれません。
作中で海神作戦を国ではなく民間主導で行うという発案は、戦後復興期の日本によく観られたスタイルでもあり、東洋バルーンのような技術を売りにする会社の協力などはソニー創業者の井深大や盛田昭夫などの戦中に培った技術を社会の発展に役立てようとする想いとよく似ていると思いました。
また軍艦高尾が戦後日本にいなかった間、シンガポールに係留されていたなど随所に史実を織り交ぜながらの描写もとても巧いし、作戦開始で船が動き始めた所でゴジラのテーマソングが流れる辺りは最高潮でした。
レビューの★★★★(-1.0)は別にタイトルに掛けてあるのではなく、幾つかの点が個人的に気になったからです。
例えばミリタリーマニアでもなければ発見された幻の戦闘機「震電」を名前を聞いてすぐに思い浮かべるのは難しいでしょう。
「新電?」「神電?」「紫電?」
多分、某監督なら黒背景に白文字で名前を挿し込むくらいはしたかもしれません。
次に戦闘機の座席を覗き込んだ敷島が座席の後ろに赤と白の貼り紙がされた部分を見つけるシーンは挿し込む場面が違うと思いました。ネタバレにも程があります。
脱出した後の回想シーンで橘から説明を受けるシーンに挿しても良かったし、あまりに露骨に「あ、この主人公は特攻しても脱出して死なないな」と思わせました。
野田たちとの会話の中で既に零戦にパイロットの脱出機構がなかった事も触れられていましたし、敷島がそこまでして生きたい動機が特攻隊から逃げ出した時も母からそう言われたからとしか語られず、きちんと掘り下げられていなかったように思います。
むしろそこは『永遠の0』の宮部久蔵(岡田准一)が松乃(井上真央)という許嫁が待っているからのように、待ち人がいて、東京大空襲で亡くなってしまった…の方が二番煎じでも生きたい動機として強く、そしてもう失いたくないというゴジラとの闘いに挑む姿として描けたのではないでしょうか。
あと瑣末な事かもしれませんが、多分東京大空襲の被害を多くの人は知らないかもしれません。
VFXを得意とする山崎監督なら焼け野原になった東京の街並みを家の周辺だけでなく、空撮などで描くシーンを挿し込む事も描けたのではないかと思うと監督の視点がややミクロにより過ぎていて、その癖に主人公の心情にはクローズアップし切れないという『ドラゴンクエスト・ユアストーリー』での反省から逃げているように思えたのでこのレビュースコアとしました。
(アレは山崎監督だけのせいではないし、個人的には巷で酷評されているほどではなくむしろ良作だと思っていますが、そのマイナスも加味して今回のレビュースコアとしました)