「絶滅危惧種の村で見つけたこと」若者は山里をめざす 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)
絶滅危惧種の村で見つけたこと
誰にでもわかる言葉で伝える。簡単なようでとても難しいことだ。『若者は里山をめざす』は、老楽男女、誰もが共有できることを目指したドキュメンタリーだ。
消滅可能性都市に指定された埼玉の山村にある東秩父村で、村の“いのち”をつなごうとする若者たちを記録した約3年間に及ぶ映像には、村が受け継いできた“いのち”の危機に端を発し、それでも村に住み、この場所にある特別な“いのち”の営みを伝えようとする若者たちの意志が写し撮られている。その姿には押しつけがない。正義だとか、村を守ろうとする使命だとか、いやらしい思惑がない。だから鼻につかない。
劇中に登場する一人の青年は、村を活性化させる団体から派遣され、特産品探しを始める。住民たち、特に老人たちとのやりとりを通して、手探りを続けながら少しずつ可能性の芽を見つけていく。
青年が向き合うのは地元名産の「ノゴンボウ」である。もとは生命力の強い雑草だった。その葉には米に粘りを与える特性があり、緑に染まった餅で餡子をくるんだり、薄く伸ばして焼くこともできる。蕎麦に使えないかと考えて、程よいサイズの葉を天ぷらにして添えてみる。小麦粉に応用すれば、ベーグルやパスタにも独特な味わいをもたらす。
餅に始まり、水焼き、ベーグルにパスタ。自らも畑を作り、自家栽培したトマトを道の駅で売ることも。POPなども工夫して、ひとりでも多くの人に“いのち”の恵みを届けようとする。そんな彼自身、まさか自分がキッチンカーで料理を作り、お客さんをもてなすことになるとは思ってもいなかったことだろう。
都会に憧れて就職したがどうもしっくりこない。希望に満ちた職場だと思ったけど自分には馴染めない。常識的な価値観に対する違和感を感じた若者たちが見つけたのは、代替えの効かない里山の“いのち”の営みだ。
「この先50年もすると里山には人が居なくなるかも知れない」…ある村人のつぶやきには、絶滅危惧種となった村の“いのち”への切なる願いが込められている。
この国の未来を変える若者たちが見つけたのは、“雑草が持つ粘り強さ”なのかも知れない。