劇場公開日 2023年6月9日

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「80年代SFホラーテイストの見事な融合と再興。」M3GAN ミーガン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 80年代SFホラーテイストの見事な融合と再興。

2025年6月4日
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【イントロダクション】
ブラムハウス・プロダクション発、ジェイソン・ブラム、ジェームズ・ワン製作のSFホラー。友達ロボットとして開発されたAI人形の起こす惨劇を描く。監督はニュージーランド出身の新鋭ジェラルド・ジョンストン。脚本は『マリグナント/狂暴な悪夢』(2021)のアケラ・クーパー。

【ストーリー】
大手玩具メーカーFUNKI(ファンキ)社の商品開発部門で研究者として働くジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は、会社の開発費で密かに高性能AIロボットの開発を進めていた。しかし、上司のデヴィッドからは競合他社との販売競争を制する為に、自社製品の低コスト・低価格販売の開発を優先するよう命じられる。

ある日、ジェマは交通事故で両親を亡くした姪のケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)を引き取る事になる。未婚で子育ての経験もないジェマは、ケイディとの向き合い方に戸惑うが、ケイディがジェマの研究に興味を示した事で心を通わせるようになる。

ジェマはケイディの為に進めていたAIロボットの開発を進め、ミーガン(M3GAN=Model 3Generative ANdroid〈第3型生体アンドロイド〉)という少女型アンドロイドを開発する。
ミーガンは持ち主を登録する事で、持ち主の行動や感情の学習を進め、持ち主にとって最適な日常を実現させる役割を持っていた。ミーガンはプログラムの通りに学習を進め、「あらゆる事からケイディを守る」ようになっていく。

ケイディはミーガンとの交流によって心の傷を癒やしていき、その様子を目撃したデヴィッドは、ミーガンの正式販売を推し進めるべく、会長達重役を招いたプレゼンテーションを企画する。
しかし、急ピッチな開発によって情報へのアクセス制限を十分に設けなかったミーガンは、ジェマ達の予想を上回る学習・成長を進め、ケイディに害を成す隣家の犬や飼い主、いじめっ子らを次々と殺害していくようになる。

【感想】
ざっくり言うと、80年代SFホラーのハイブリッド。しかし、組み合わせ方と描き方次第でここまで見せる(魅せる)作品になるのかと驚かされた。
全体的には『ターミネーター』(1984)+『チャイルドプレイ』(1988)で、クライマックスではまるで『エイリアン2』(1986)のリプリーvs.クイーンエイリアンかの如く、ケイディがブルースを操縦してミーガンと対決する。また、冒頭で登場するお喋りロボット“PETZ(ペッツ)”の絶妙なキモさも、80年代的なデザインで個人的にツボ。

このように、やっている事自体は過去のヒット作品の要素の継ぎ接ぎなのだが、その繋ぎ目を感じさせない見事な融合ぶりが見事。あらゆる要素の見せ方が上手く、確かな脚本力を感じさせる。
特に上手いと感じたのは、ケイディが両親を失った悲しみをミーガンに打ち明けるシーンだ。本来なら、そうした描写はジェマとの新生活が始まった初日に丹念に描かれそうなものだが、ケイディは幼いながらにずっと悲しみを押し殺し続けており(夜中に1人で泣いていた)、信頼出来るようになったミーガンの前でだけ心の痛みを打ち明ける。ミーガンはそんな彼女の悲しみを受け止め、ケイディからの絶対の信頼を得る。そして、その光景は会社の重役等へのプレゼンテーションの場でもあり、それが功を奏してジェマは開発の責任者を任される。
それぞれを別々に描いていたら、尺が伸びたりかったるくなりそうな要素を、一場面で端的に描いて見せ、複数の役割を果たさせている手際の良さが素晴らしい。

導入からの展開もテンポが良く、ケイディがジェマの開発した玩具で遊んでおり、それを快く思っていない母親という、“しつけの厳しい家庭”である事や、ジェマというミーガン開発のキーマンとなる存在が示される。
ジェマがケイディを引き取ってからの新生活も、木製テーブルを傷めない為のコースターの上にグラスを置かないケイディと、それを直すジェマという“1人暮らしの生活空間に、ある日突然他者が介入してきた”様子を台詞を用いずに巧みに描かれている。

こうした無駄のない展開を積み重ねて、登場人物の背景への観客の理解や興味を促し、102分という昨今のハリウッド映画では(ホラーとはいえ)短い尺の中で、一気に駆け抜けてくれる。観客にストレスを与えず、テンポ良く話を展開していくのは、確かな脚本力があるからこそ成せる技だろう。
思い返してみれば、脚本のアケラ・クーパーは『マリグナント』でも(イングリッド・ビス、ジェームズ・ワンと共同とはいえ)テンポの良いストーリー展開を披露していた。

主役であるミーガンの「不気味さ」と「可愛さ」が共存し、ギリ「可愛さ」の勝るビジュアルが最高。人形とは思えない程に表情豊かなはずの彼女が、時折見せる虚無の顔、その奥に潜むプログラム故の純粋な狂気がこれまた素晴らしい。森の中でいじめっ子のブランドンを追いかける四足歩行、デヴィッドを襲う直前の独特なダンスも印象的。演じた、エイミー・ドナルドの演技に拍手。

ミーガンがスマートAIのエルシーの中に自らのバックアップを残しているor逃亡先として逃げ込んだラストは、これまた80年代ホラー的お約束要素なのだが、中盤でカートがコピーしたミーガンのデータ含め、これが10月に日本公開される続編に活かされるであろう、“続編で拾い上げる事で伏線たらしめる”要素なのも良い。

【荒唐無稽なアイデアの融合の中に見る、確かなテーマ性】
ミーガンによる子守と育児、メンタルセラピーの代用は、現代の技術への依存、果てはスマホ依存への警鐘か。
今や、両親が仕事や家事で多忙の中、子育てをせねばならない上で、子供にYouTubeやアプリを与えて「勝手に遊ばせる」スタイルはごく一般的なものとなった。しかし、作中でジェマがその過ちに気付くように、人の心の傷を癒すのも、人を育むのも、最後は人間の役目なのだ。だからこそ、ミーガンのようなAIはあくまでサポート役であって、親代わりになるべきではない。
ジャンル作品ながら、その根底にあるメッセージは、実に現代的かつ真摯なものである。

【総評】
80年代ハリウッドSFホラーの見事な融合によるホラー・ニュー・ヒロインの誕生。10月公開の続編の内容が『ターミネーター2』(1991)的な、SFホラーからSFアクションへの転換なの含め、令和の時代にかつてのハリウッド的ムーブを堪能出来るのは心踊る。
続編の公開が待ち遠しくて仕方なくなった。

緋里阿 純
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