劇場公開日 2023年12月15日

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「差別の存在してしまった世界で」ティル つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0差別の存在してしまった世界で

2025年5月4日
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鑑賞方法:VOD

映画好き界隈では割と有名な話だと思うのだが、元アメリカ大統領のバラク・オバマ氏は毎年自分のフェイバリット・ムービーをSNSに投稿してくれている。趣味が近いのでいつも「良いセンスしてるぅ」と思いながら、観られるヤツはほとんど観ているのだが、そこはやはりオバマ氏、黒人映画がメチャメチャ多いのだ。
お陰様でアメリカの人種差別にはかなり詳しくなったが、一方で「差別は良くないと思いました。」みたいなシンプルな感想も持てなくなった。

そんな訳で「ティル」のレビューは一体何を書けば良いのだろうと悩んでいたのだが、一緒に鑑賞した旦那から天啓のような一言が舞い降りた。

白人も「差別」を知らなければ差別しないんじゃないか?

都会育ちの少年エメット・ティルが、差別の根強い南部で悲惨な運命を遂げるのがこの映画の導入である。観ている私たちは知っている。この頃のアメリカ南部の差別の酷さを。エメット少年は知らない。都会のデパートで受ける差別とは天と地の差があることを。
彼の無邪気な言動が彼を奈落へ突き落としたのは、差別の苛烈さに対して無知だったからだ。では、白人の側が「黒人なんて犬畜生と同じ」という差別を知らなかったら?
進撃の巨人でサシャがオニャンコポンに「オニャンポコンはなぜ肌が黒いのですか?」と聞いていた、あれと全く同じ反応になるんじゃないだろうか。
例えばすごい癖っ毛の人がいて、「なんで髪そんなクルクルなの?」と聞いて「家族みんなクルクルなんだよ」と言われたら「ふーん」で終わりじゃないだろうか。そんなもんかぁ、で済むようなことで人が人を差別し、その命を簡単に奪う。
それは「知っているがゆえの悲劇」なのではないだろうか。

一方で「リンチで人を殺す事は憎悪犯罪である」という法律が必要なほど、そしてそれがアメリカで成立したのがごく最近の出来事だということは、すでに存在してしまった「差別」は根深い、ということを痛感する事にもなる。
「差別を知らない」世界は現在の私たちが暮らす世界とは遥かに遠いパラレルワールド、それを望んでも行き着くことは難しい。
すでに存在してしまった差別を「無かったこと」にできないのであれば、むしろ知ることで「愚かな行為」に変えていこうという努力がまだまだ必要だということなのだろう。

退任したバイデン大統領の功績とも言える「エメット・ティル反リンチ法」が、大統領交代で形骸化しないことを願いたい。

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つとみ