劇場公開日 2023年2月18日

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「普通の選挙報道では絶対に見られない貴重なドキュメント」劇場版 センキョナンデス 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0普通の選挙報道では絶対に見られない貴重なドキュメント

2023年4月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ラッパーのダースレイダーと、時事芸人のプチ鹿島が監督及び主演した、選挙を題材にしたドキュメンタリーかつロードムービーでした。2021年10月に行われた衆議院選挙では香川1区を、2022年7月に行われた参議院選挙では大阪選挙区と京都選挙区にスポットを当て、普通の選挙報道では絶対に観られない実に興味深いドキュメントが盛りだくさんでした。中でも昨年の参院選の最終盤に、安倍元首相に対する銃撃事件が発生し、その直後の候補者たちの街頭演説風景や、本件に関する著名人のツイート(ホリエモンが「アベガーのせいで安倍氏が撃たれた」と言ってましたね)を伝えるシーン、そして比例区の候補者だった辻元清美氏に対してのインタビューなどは、非常に貴重なドキュメントだったんじゃないかと思いました。

衆院選香川1区における、現職にして選挙直前までデジタル改革担当大臣でもあった平井卓也候補(自民党)と、対立候補である小川淳也候補(立憲民主党)の選挙戦を巡るドキュメントも、大変興味深いものでした。残念ながら私は観ていませんが、同じく選挙を題材にした「香川1区」という映画の主題となった因縁の対決で、主演2人が平井陣営から「香川1区」の回し者じゃないかと疑われたことなども見所でした。(因みに「香川1区」の監督を務めた大島新が、本作ではプロデューサーを務めていましたが、選挙当時は本作「劇場版センキョナンデス」の製作は念頭になかったようです。)
また、平井候補の弟が社長を、母が社主を務める四国新聞が、小川候補への取材なしに小川候補の批判記事を掲載するなど、およそジャーナリズムとかけ離れた報道を行っていたことや、平井候補の選挙事務所をダースレイダーとプチ鹿島が訪問して以降、2人の動向をスマートフォンのカメラで監視する人物が現れたことなどは、考えてみればゾッとする話でした。

また、これは自民党だけの問題ではなく、与野党関係なく共通して観られた傾向ですが、候補者たちは総じて喋りたがっているけれども(選挙だから当然だけど)、都合が悪い話になるとはぐらかしたり、スタッフがインタビューを遮るような行動を取ることが映像として残されたことも、ドキュメントとして最高でした。

この点は公平を期するために立憲民主党のことを取り上げておくと、昨年の参院選の前に、菅直人元首相が維新の会に対する批判的な立場を鮮明にし、「闘うリベラル」と言って血気盛んに活動していたことがありました。応援演説で関西に来ていた菅氏にもインタビューを行い、当初は菅氏も歯切れよくコメントしていたのに、「立民の執行部が菅氏を煙たがっている」という趣旨の週刊誌の記事が出た後は、菅氏本人はもとより、京都選挙区の候補者だった福山哲郎候補の舌鋒も鈍りまくっていました。

都合が悪いことははぐらかす、逃げるというのでは、言論で世の中を動かしていく政治家や政党として、必要最低限の要件を満たしていないのではないかと思いましたが、そういう政治家(一蓮托生の四国新聞も含めて)に対する、プチ鹿島の質問力には感心させられました。候補者や四国新聞の社員たちに対し、鋭い質問を浴びせる。そしてそれに答えない、もしくははぐらかそうとする彼らに対して、執拗に食い下がろうとする鹿島の姿勢は、恐らくは日本のジャーナリストの平均点を遥かに上回るものだったのではないかと思います。

あと、自民と維新の候補者の陣営だったと思いますが、街頭演説の様子を撮影するのにも、選挙スタッフが選挙事務所に一報を入れるよう求めていたのには、少し薄ら寒さを覚えました。「選挙事務所の中で取材するなら許可を得ろ」と言うなら分かりますが、本来来るものを拒めない街頭演説の取材すらコントロールしようとするというのでは、ホントに日本は「自由主義陣営に属する民主主義国家なの?」と思わざるを得ません。

そんなこんなで、いろいろなドキュメントを見せてくれた作品でしたが、主演の2人が「選挙はエモい」「選挙は祭りだ」と言っていたことには激しく同意します。国や自治体の将来はもちろんですが、一瞬で候補者個人の人生が決まってしまう選挙は、言葉を選ばずに言えばギャンブルそのもの。候補者本人やその関係者は、アドレナリンが出まくりでしょうし、近寄って見ている者にもその熱気は伝わってくるものです。そして、エモくて祭りな選挙こそが、民主主義の根幹にあるものだということを、改めて感じました。

そういう意味で、安倍元首相の銃撃事件や、直近に発生した岸田首相の演説会場における爆破事件などは、選挙そのものを邪魔するものであり、結果的に民主主義の根幹とか前提を壊してしまうものであることを指摘しておくべきかと思います。

最後に、内容は全く異なりますが、先日観た「三茶のポルターガイスト」という映画同様、本作もYouTubeチャンネル発の映画作品でした。わざわざ映画館で上映する意味があるのかという疑問も沸くところですが、日本の選挙の実相を記録するという、大手メディアが手を付けてない(付けられない?)内容であっただけに、特に本作については、映画化は大正解であり、エンディングで「次作に続く」というテロップが出た時には、小躍りしてしまいました。

そういう訳で、次回作への期待も込めて評価は★5とします。

鶏