「恋愛と家族愛に命を捧げるイタリア人の情熱とバイタリティ」離ればなれになっても Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
恋愛と家族愛に命を捧げるイタリア人の情熱とバイタリティ
1966年生まれのローマに住む男女同級生4人が経験する恋愛から結婚、そして紆余曲折を経る友情の変遷を、荒削りで小気味よいタッチで弛みなく綴った人生ドラマ。16歳から56歳までの40年間に起こった社会変動を時折差し込みながら、イタリア人の情熱的で直情的、自分に嘘が付けない正直さ故の軋轢をも受け入れるバイタリティある生き様を恥じらいなく大らかに披露している。本国で大ヒットしたのも、浮気や離婚の苦難を乗り越える主人公たちの常に前向きな姿勢が共感を持って受け入れられたからだろう。他の国なら陳腐な愛憎劇になりそうな人間模様をコメディとして泣き、笑い飛ばすイタリア人の強かさと人間味が面白い。原題の『最高の年』が日本語タイトルでは内容が分かり易い反面、作品の温かみが伝わらないのが勿体ない。英語タイトルの『The Most Beautiful Years』の方が合っていると思った。
しかし、映画も最初のタイトルバックから5分でその良し悪しが判ると思っている私は、この作品には期待できないと早々視聴を止めようとしたのも事実。特に学生と警官が衝突するシーンでリッカルドが撃たれるガブリエレ・ムッチーノの演出が良くない。お腹から大量の血が流れて瀕死の状態かと思わせて、次のカットでは不死身のあだ名の説明があるものの、このエピソードがこけおどしに見えて一気に詰まらなく感じてしまった。本当に必要なエピソードだったのか疑問も残り、後半の良さに比べて前半の特にこの冒頭部分は頂けない。期待感が生まれたのは、ジェンマとパオロの最初の別れのシーン。パオロが窓から彼女を見送ると飼っていたインコの小鳥も外に飛んでいくカットは実に映画的表現で、綺麗に撮れています。4人分の40年間の内容の濃さと映画の尺が釣り合わない為、映画の語りに演出美をそれ程多くは見せておらず、展開の速さに驚きつつ予測不可能なドラマに付き合う楽しさを優先する作品でした。それでもパオロが久し振りにジェンマに再会して、彼女の子供と一緒にオペラ鑑賞する場面がいい。パオロにしか見えない小鳥が現れて天井画まで舞い上がり、彼に向って飛び込んでくる。すると最初の別れのシーンに戻り、ジェンマが再びパオロのアパートの階段を駆け上がっていく。それを少女から中年になったジェンマの時代の変遷を階段ごとに変えて表現した映画的な見せ場の巧さ。プッチーニ作曲のオペラ『トスカ』のアリア(星は光りぬ)が何とも言えない情感を盛り上げます。流石オペラの国、使い方が見事でした。一瞬にして二人の感情を掻き立てる表現の美しさと素晴らしさ。そういえば少女のジェンマを演じたアルマ・ノースから大人役のミカエラ・ラマゾッティに成長するのを、ナポリで手紙を書くジェンマを一回りするカメラで捉えたカットも面白かった。美しい容貌から金髪の髪の毛のスタイルと身体つき含め、同一人物のようなキャスティングに不自然さはありません。
細かい演出では、成長した息子アルトゥーロに拒絶されたリッカルドが失意のまま電車から降りるシーンで、ホームの奥からジュリオが現れるのをアウト・フォーカスから手前でピントを合わせ偶然の再会を演出しているところが基本に忠実で意外だったが、その後の長いわだかまりを抱えた男2人が連絡先を確認する流れが自然でいい。これを契機に3人の男が酒場で人生を振り返る。16歳の時のように、お互いに言いたいことを言い合うおじさんたちの仲の良さと、そこからパオロの家に移って前妻ジェンマと再会するジュリオの複雑な感情。収まるところに収まって安堵する気持ちと、言葉にできない寂しさ。傷付きこころが痛む人生を経てきた独り身のリッカルドには、最後映画からのプレゼントがある。車で家に着く何でもないシーン。霧に包まれた暗闇の中で、玄関の明かりがほの温かく付いている。誰かが待っていてくれるのは、もしかして息子のアルトゥーロではないかと、観る者を優しくさせる演出の意図がある。その答えは、ラストの大団円で快くハッピーエンドを迎えて、映画は綺麗に終わります。
ラストシーンは、ジュリオの娘とジェンマの息子が仲良く手を繋いで歩いていく。まさかここにリッカルドの息子アルトゥーロが介入するのかと心配にさせるユーモアも感じて、恋愛と家族愛が命のイタリア映画の本質を窺わせます。
主演の男3人の、弁護士ジュリオのピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、高校教師パオロのキム・ロッシ・スチュアート、家業の農園を継ぐリッカルドのクラウディオ・サンタマリアが適材適所のキャスティング。知っていたのはキム・ロッシ・スチュアートのみで、2004年のジャンニ・アメリオの「家の鍵」の好演が印象に残っています。これは公開当時全く評判にならず、勿体ないと思ったイタリア映画の名作と言っていいと思います。これも父と子の愛情を描いたイタリア映画らしい作品でした。女優陣も素晴らしく、ミカエラ・ラマゾッティの演技は正しくイタリア女優の模範のように魅力的かつ情熱的。少女時代のアルマ・ノースとジュリオの娘ズヴェーヴァ役の女優も美しい。エンドタイトルに流れる音楽と詩も、人生をしみじみと振り返った素直な感情が溢れて、心地良く観終えることが出来ました。
かばこさんへ、共感とコメントありがとうございます。
おばQのアイコンがいいですね。その昔小学校3年生のとき教壇でお化けのQ太郎の主題歌を歌って大喝采を受けたことを想い出しました。皆からは真面目と思われていたので、物まね風な歌い方のギャップが受けただけでしたが。
イタリア映画がお好きなのですか。陽気で明るく前向きな人生観が観ていて心地良いです。ロッセリーニ監督の「神の道化師フランチェスコ」もイタリア映画らしい作品でした。悲しい映画の名作も沢山ありますが、心が温かくなる楽しい作品も多く、元気を貰えるところが私も好きです。
こんにちは
イタリア人は、人生が豊かだ、と思いました。
いくつになろうとも、くっついたり離れたり、大人げないとか誰も言わない、おおらかに感情豊かに生きてますよね。
不死身のリッカルドのエピソードは、可笑しくて私は好きです。