「香港映画史の史料としても極めて重要な一作」カンフースタントマン 龍虎武師 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
香港映画史の史料としても極めて重要な一作
香港映画やその特筆すべきアクションを作り上げてきた俳優達についてあまり知識がないまま鑑賞した観客による感想です。
そんな熱心なファンとは言えない観客でも、サモ・ハンの名前は知っていたし、笑いながらハラハラしながら、彼の映画を鑑賞したこともあるので、老境にさしかかりつつ未だ健在な彼の姿を拝見できたことが嬉しかったです。
本作は、サモ・ハンをはじめ、ドニー・イェン、ツイ・ハーク、ユエン・イーピンなど、香港映画のアクションを築き上げてきた、まさに当人達自身が語る証言集となっており、その発言一つひとつが非常に興味深い上、彼らの証言を辿ることで香港映画のスタント、そして香港映画そのものがどのように展開してきたのかが一望できるという巧みな編集となっています。ブルース・リーは誰もが知る、香港映画のみならず映画史上に残る人物ですが、本作では、彼の存在がどのように既存の香港映画を変革していったのかを様々な証言者の語りから浮かび上がらせており、改めて映画俳優としてのリーの功績を実感することができました。
使用されている映像は、実際に上映されたフィルムもあれば、その前後も含めた、いわゆるフッテージ映像も使われています。このフッテージを観ると、映画として演出されていても驚くような激しいアクションを、ほんとに俳優達が身体を張って演技していることが分かり、改めて驚かされます。
ある撮影では、建物の屋根から落下し、途中のひさしが一種のクッションになって地面に落下する、という手順だったところ、ジャンプの角度を間違えて直接地面に落下してしまいます。俳優が衝撃と痛みのあまり起き上がれず、呻き声を上げているところまでカメラは捉えていました。しかしスタント俳優への配慮が十分ではなかった当時ではこうしたアクシデント、怪我は日常茶飯事だったとのこと。鍛え上げられた身体を持っているとはいえ、あまりの過酷な状況に言葉を失ってしまいました。
1997年の香港返還後、香港映画はかつての勢いを失った、という評が流布しましたが(実際、『インファナル・アフェア』(2002)のような傑作は、こうした危機感を持った香港映画人によって製作されています)、本作に登場する熟達のスタントマン(武師)達はそうした苦境を認めつつも、若い映画人達の発掘に力を注いで、さらに次の段階を目指していました。衝撃的な場面も含まれますが、本作は非常に見応えのある作品です。できたらジャッキー・チェンの証言も聞きたかったけど!