「相互依存、共依存の関係」同じ下着を着るふたりの女 redirさんの映画レビュー(感想・評価)
相互依存、共依存の関係
冒頭から、イライラと怒りまくる母親。もうかなり大人なのに子どものように怒られる娘。母子家庭で苦労して子育てをしてきたと子どもに言うが母親は自由奔放に恋人がいて今その恋人と結婚しようとしている。恋人は妻はなく中学生の娘を一人で育てている中年の男。この二人はたがいに理解し合い愛情もあり、母親が利用しているという感じでもない、お互いに必死な恋愛関係とも思われる。心からの友ではないとしても集まりバカ話をして旅行したりする友達グループもある。母親は利己的だがそれなりの人間関係で社会生活を営んでおり、イライラの吐口は娘に向いている。こんなはずではなかった、と悔しく思うときは娘がいなければと思うだろうし、娘から母親失格のようなことを示されるとこんなに育てて面倒みてるのにと堂々めぐり。娘が事故で入院したときに病室に置かれた二人の変な顔の写真も伏線。何度となく洗濯シーンがある下着のパンツやその引き出しも伏線。
若い世代、主人公の娘、その同僚、中学生の(男の方の)娘には恋愛などは一切なく、社会生活の一員とはなれておらず、これは世代の相違もあると思うが、ドライな社会を自分なりに漕ぎ出そうとしてはいるけど結局この母にしてこの子あり、的な、独特の利己があり、自分のことで必死な感じしかない。
母子が無意識に相互依存する以外は、みんなひとりぼっちだ。
主人公の娘は、母親と相互依存しているから、同僚や中学生のような孤独ではない。本人は母親に依存共存寄生していることに無自覚だろう。母親も子どもに人生台無しにされた、露悪的に子どもを大事にしてないそぶりを繰り返しながら子どもに常に感謝という見返りを求める。母親は絶対に謝らない。徹底して謝らない、娘にも謝らないし、恋人の子にも謝ってほしい、謝らないとダメだと恋人から言われても、なんで私が謝るのか?と反応し謝らない。この人の特質、この人の面白いところだ。この人の処世術なのか。
娘の会社の様子はおそらく上流以外の韓国社会で一般的なものだろう、
人を値踏みするような卑屈で哀れな低位置でのマウント取り、地雷を踏まないよう慎重な言動、同僚は少し娘に同情共感するようなところもあるが本心は自分のことでていっぱい、彼女も家からやっと逃れ大学に入り大卒に見合わないような仕事をしながらなんとか家賃など払い実家に戻りたくないこのまま生活維持向上したいともがいているようだ。事なかれ主義で会社をやり過ごしパワハラにも耐えている。この人の存在がうまくいってないけど自立している同世代の女性と、母親を憎みながらもまるで子どものように母親に依存している娘との対比においてとても重い。娘は母親のもとを逃げ出すとまたこの人に依存しようとさえする、無意識に。自覚的に家から逃れた子と無意識に母親にパラサイト続ける子。だから友達になれない。
中学生の子と父親は、母子の関係ではないのでまた問題も違うところにあり、近づきすぎないこと、金やものを介することである程度解消されたりしている。さらに若い世代なのでまたまた身の処し方も違う。
下着のパンツを娘が洗うシーン。二人のパンツがごちゃ混ぜでたんすの同じ引き出しに全てのパンツはしまわれており、
パンツは共有されている。初めての生理のとき不機嫌ながらも母親が親らしく世話して教えてくれた時の娘の嬉しさなど、ジワジワと全体に波及する小さな出来事や記憶。
最後、ついに何度かの反抗、家出もどきの末、いよいよ自立の時となるがこれまでブラジャーも全て母親と共有であったことがわかるのだ。子にブラジャーを買い与えない児童虐待の話もよく耳にするこの頃。普通に成長過程ですることを体験していないこの親もこの子も相互にあるのは憎み合いではなく、無知に無意識に、依存共存おそらく一体化して生きてきたのだなとわかる。
最初の不機嫌な母親、毒親像が、だんだん、車の件、同僚への態度会話なども交え、不機嫌な娘、毒娘像にもみえてくる。
親子の問題、母子の、ネグレクトと同化共存の相反する事象、韓国にも日本にもあるお寒い社会状況、ジワジワといろんなことが絡まり合う。
一緒に会食したりする友人夫婦、足に保湿クリームを渡してしまう夫は妻に謝り、妻はまた主人公の母親に謝り元のように一緒に買い物をする。共依存ではない<普通>の家族、親
、人との違いが際立つ。
謝ることができない、できないから教えない、おそらく母親もまた謝らない毒親に育てられたか、親がなかたか、謝ると言う地平を知らないまま生きてきたのだ。貧困、無知、不運不幸の連鎖も浮かぶ。
母子の関係は男性には分かりにくいかもしれない。女性なら、これを他人事と見なければ、子どものあるなしなど関係なくどのような立場でも、思いあたり思いはせることができる映画だと思う。そのくらい丁寧に作り込まれているのでもう一度みたらもっといろいろ気づきがありそうだ。