「大切な人を守るため」非常宣言 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
大切な人を守るため
まず仁川国際空港に現れる挙動不審な男の描写がとても不気味だ。
男は自ら脇の皮膚にナイフで切り込みを入れ、カプセルのようなものを身体に隠してハワイ行のスカイコリア501便に搭乗する。
かなり序盤から男の正体が警察に把握され、また男が凶悪なウィルスを機内に持ち込み散布するつもりであることも明らかになる。
しかし飛行機が離陸した後では、もはや地上にいる人間には手を打つことが出来ない。
やがて男によって散布されたウィルスにより、乗客と乗務員の中に死者が出てしまう。
そして感染は瞬く間に拡がり、機内はパニック状態になっていく。
物語がどのように展開していくか気になったが、このジンソクという犯人の男も自ら撒いたウィルスによって呆気なく死んでしまう。
世間に対する強烈な悪意を残したまま。
ウィルスによって亡くなってしまった機長に代わり、副操縦士が緊急着陸をすべくサンフランシスコへと進路を取る。
しかし着陸を目前にしてスカイコリア501は受け入れを拒否されてしまう。
さらに彼らは成田空港でも受け入れを拒否されてしまう。
どうしても乗客や乗務員の目線で観てしまうが、もし彼らを受け入れれば感染が拡大してしまう恐れがあるために、この映画の中でのアメリカや日本の措置が非道であると責めることも出来ない。
この映画の中でまず問われるのは、大勢の人間を救うために少数の人間を犠牲にしても良いのかということだ。
分断は機内でも感染者と非感染者の間で行われてしまう。
しかし最終的には搭乗する全員がウィルスに感染してしまうのだ。
確かに自分だけは助かりたいという気持ちは理解出来る。
自分だって非常時になればどんな感情が沸き起こるか分からない。
ソウルでスカイコリア501の受け入れを反対するデモ隊と警察が衝突する場面が印象的だった。
もし自分が感染者側だったら、もしくは地上にいる側の人間だったらと色々と考えさせられた。
しかしやはり人は最後まで人を思いやる気持ちを忘れてはいけないのだと思った。
そしてそれは助かりたいと願う感染者たちも同じことなのだ。
もし自分たちが空港に着陸すれば、感染が拡大して多くの犠牲者が出てしまう。
彼らは究極の決断を迫られることになる。
この映画の大きなテーマは大切な人を守るためにどう生きるかということだろうか。
娘のスミンと共に搭乗したジェヒョクは、実はかつて実力のあるパイロットだったのだが、自らの判断によって副操縦士の妻を死なせてしまったという自責の念にかられていた。
それでも彼は恐怖心を克服し、動けなくなった副操縦士の代わりに操縦席に座る。
スカイコリア501に残された妻を助けるために自らウィルスを打ち、抗ウィルス薬の効果を証明しようとしたイノ刑事の勇気にも心を打たれる。
彼の生死をかけた行動によって、スカイコリア501は受け入れを許可される。
他にも危険を顧みず乗客をケアし続けるCAの姿も感動的だった。
いつ飛行機が墜落してもおかしくないスリリングな展開にも終始引き込まれた。
俳優の技量もあり、細かいツッコミどころはあるのだろうが、やはり韓国映画の底力は凄まじいと感心させられた。