「ここ2、3年の現実がすっかりフィクションを超越してしまったことを逆説的に痛感させられる」ピンク・クラウド 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ここ2、3年の現実がすっかりフィクションを超越してしまったことを逆説的に痛感させられる
空にピンク色の雲がふんわりと浮かぶ。その光景だけ切り取るとポップなファンタジーのようにも見えるが、しかし人はそれに触れると、ものの10秒で死ぬという。かくも不条理なギャップをたたえつつ本作は、ピンク色の陽光に包まれながら淡々としたタッチの室内ドラマを紡いでいく。実際のパンデミックを経験済みの我々はきっと作品の端々にデジャブを抱くはず。ロックダウンが続く中、徐々に家族の形や関係性は変化し、その人の個性や考え方まで変わっていく苦しみも共感できる。驚くべきことに本作の脚本は2017年に書かれ、撮影そのものも19年に行われたとか。つまりかなり予言めいた作品なのである。それはそれで凄いことだが、「そうそう!」と思えるリアリティはあっても、物語に欠かせない斬新な驚きやビジョンがやや足りない気も。我々の暮らす現実の方が、この数年でフィクションの域を遥かに飛び越えてしまったことを痛感させられる一作である。
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