「コロナ禍の前に作られたロックダウン映画。今注目されるのは吉か凶か」ピンク・クラウド 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
コロナ禍の前に作られたロックダウン映画。今注目されるのは吉か凶か
謎めいたピンク色の雲が発生し、その強い毒性はわずか10秒で人を死に至らしめる。運悪く外に出ていた大勢が命を落とし、室内にいた残りの人々は窓を閉め切って閉じこもる生活を強いられる。2023年にいる誰もが、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行に伴うロックダウン生活を思わずにはいられないが、本作の脚本は2017年に書かれ、2019年に製作されたものだという。
ストーリーは、出会ってすぐに一夜を共にし、翌日にピンク雲により閉じ込められた男女を中心に進む。閉じられた空間で長い年月を過ごすことを強いられた他者同士が、どのように状況と折り合いをつけていくのかを描くことに重きが置かれている。
相対的に、実際にそのような状況になったらインフラは維持できるのかとか、ガスマスクや防護スーツが大量生産されて外出できる人々が増えていく可能性など、科学的な観点での検討や掘り下げが足りないように感じられた。設定だけ聞くとSF作品のような印象を受けるが、フィクションが優勢でサイエンスの要素が弱いのだ。
製作は2019年と書いたが、初上映は2021年1月のサンダンス映画祭とのこと。つまり、パンデミックがなければ注目されないままお蔵入りになっていた可能性もあった。5月にコロナの位置づけが2類相当からインフルエンザと同じ5類に下げられるなど、ようやくアフターコロナの局面に向かいつつある日本に限って言えば、公開時期はやや不運だった気がする。気ままに出かけたり人に会ったりできない暮らしが延々と続いた後で、お金を出して映画館で閉塞感を追体験したいとはなかなか思えないのではなかろうか。
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