「女性版『記者たち』かな」SHE SAID シー・セッド その名を暴け てつさんの映画レビュー(感想・評価)
女性版『記者たち』かな
初めの方で、1992年のアイルランドの場面があって、いきなり2016年のニューヨークに飛び、電話で当時大統領候補のトランプ氏のセクシュアルハラスメント告発への恫喝があり、この作品のテーマへの火蓋が切られた感じがした。その後はトランプ氏ではなく、当時大物映画プロデューサーとして権勢を誇ったワインスタイン氏が加害者として据えられ、二人の女性新聞記者が取材を重ね、真実に迫っていく。まさに様々な論評で言及され、撮影監督のブライエ氏がインスピレーションを得たという1976年公開の『大統領の陰謀』の女性版と言って良いものであった。ただし、監督のシュラーダー氏は、その作品について、私生活が描かれていない点でむしろ避けたいと述べています。それならば、2017年に公開された同様の二人の男性記者によるイラク戦争の背景についての取材経過を描いた作品の『記者たち』は、私生活を描いている点でより近いと言えるのではないだろうか。取材において裏づけを徹底的に取りに行き、特に被害者の同意が得られるまでは記事に移すのを控える非常に丁寧な姿勢の繰り返しの描写は、やや冗長に感じたが、その誠実さこそが、この作品で伝えたかったことでもあるのだろう。性行為の描写も意図的に控えたものだという。そこも卓見なのであろう。2019年公開の『スキャンダル』は、被害者を俳優に絞り、泣き寝入りから告発への動的な変化を描いていたが、このたびの『シー・セッド』と比べると、荒過ぎる描写だったと言わなければならないであろう。映画『記者たち』では、『ニューヨーク・タイムス』は、政府の発表を鵜呑みにするジャーナリズムの主体性を放棄した報道体制を批判されているのに対して、この作品では相手が政府ではないけれど、矜持を感じるものだと言って良いであろう。