劇場公開日 2023年1月13日

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「徹底的に。」SHE SAID シー・セッド その名を暴け キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5徹底的に。

2023年1月14日
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近年の映画界は、エンタメと並行して世の中にある「差別」や「格差」、「断絶」「ハラスメント」との戦いを描いてきた。
アカデミー賞受賞作品にも、そういった社会性を求められる様になってずいぶん時間が経つ。

それなのに。

その極悪な卑劣漢は、実はその映画界、それも中心部で業界のトップと言っていい立場で何十年も前からハラスメントや性的暴行を繰り返していたという、コミックの様な皮肉な現実。

この作品ではそれを「モチーフ」どころか、実名や肉声を使って、これでもかとばかりにその現実を突きつけてくる。
もう容赦無く徹底的に。
いわゆるセクシャルな映像はほとんどなく、衝撃的な演出もあえて避け、実際のやりとり音声はホテルの廊下をただカメラが進んでいく映像で、それでも十分おぞましさが伝わってくる。

主人公の二人はもちろん、登場する女性たちの凛とした姿が素晴らしい。
恐れ、怯え、苦しみ、それでも立ち上がる人もいる。
物語とは直接関係ないけど、二人のファッションもまた、フラットなカッコ良さと可愛さがあった。

登場人物が非常に多く、人名はしっかり整理しながら観る必要はある。
事実に基づく物語なので展開は「取材」シーンが大半。どんでん返しやギミックがあるワケでもないのに、その取材の悪戦苦闘ぶりに2時間強の上映時間がまったく長く感じない。
スムーズに話を飲み込むためにも、被害にあったと告発している女優さん(アシュレイ・ジャッドとかグイネス・パルトロウ、ローズ・マッゴーワンあたり)の名前と顔は知っておくといいかも。

それぞれの女性たちが、「この後の世代」また「自分の子供たちの世代のために」…と自分のリスクを覚悟で立ち上がっていく姿に心を打たれる。

我々男性としては、当事者としてこれを受け止めた上で、もちろん自分だけでなく、目の前の同僚や上司、権力者の暴走を止めることができるのかも考えていかなくてはならない。

あ、あと、数年前に日本にも女性に性的暴行を犯して開き直っていた著名人がいたが、身の潔白を証明しようとする説明が、作中でワインスタインや弁護士が言う、まったく説得力がないどころかセカンドレイプともとれる、内容の酷似したセリフだったのを見て、「クズは世界中で同じなんだな」と実感した。

なんだか、他にも書きたい事がいっぱいあるのにまとまらない。
この事件について、当時も日本ではそれほど大きく報道されていないので、私自身の不勉強と相まってホントに久しぶりにパンフレットを購入して、観賞後は登場人物名の混乱と知識不足を補填した。

正直、映画そのもののクオリティとしては★4.0。そしてこの映画の意義にプラス0.5とさせて頂きました。

キレンジャー