「きっと続編はないんだよね」春に散る ボンボンのんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
きっと続編はないんだよね
原作未読の2回鑑賞しました。
一回目は瀬々監督の故郷でもある大分にて。
二回目は豊洲の舞台挨拶にて鑑賞。
◆広岡仁一(佐藤浩市)
冒頭で将吾にパンチを喰らわす仁さん。
誰よりも強い男だった。
でも、実は病がわかり、昔を懐かしくなり、故郷に戻っていた。
どんな強者にも立ち向かっていった元格闘家も
近いうちに訪れるであろう死を受け入れられないでいた。死は怖い。
翔吾の不祥事で土下座しながら
「これは私の最後の仕事なんです」
と言い切っていた。
「最後になるかも知れない」ではなく、言い切っている段階で、本当の死期が見えていたのかな。
その儚さが、桜のイメージにも重なる。
強さと儚さの対比、の共存を見事に演じてくださった。これこそ佐藤さんだと思った。
仁さんのカレー、どんな味だろう?
◆黒木翔吾(横浜流星)
母親を守りたくて、ボクサーを始めた心の優しい真っ直ぐな役どころ。
「優しさは試合で仇になる」と警告される。
前半は好戦的なボクシングだが、徐々に感情をコントロールするように改善されていく。
入場シーンは何度もリピートしたくなる。
中西が突然ジムに来た時、眼球だけで闘争心にさらにスイッチが入る眼をした。
そう、これが流星さんの魅力のひとつで、眼だけで演技ができる。
実家に帰ると、知らない男が居た時
「息子だよ!」という。恐らく昔から何度もこんなことがあって慣れてるんだろうな。
でもあまり女性慣れしていない?のか佳菜子に対してはぎこちない対話がなんか良い。
流星さんの出演作はほぼ鑑賞しましたが、毎回、役への作り込みが本当に素晴らしい役者さん。
言葉ではなく、きちんと作品と行動で示す。
プロのライセンスを取得するほど。
「実際の試合に出るなら役者を辞める。」と格闘家の方々へのリスペクトも忘れない。
身体能力を活かした役が今後もっと観たいと思う。
◆中西利男(窪田正孝)
映画出演ラッシュの中で、こんなに身体を張った役をこなすことに驚き!
山の子ジムに偵察に来て、
去る時に翔吾に向けて送ったジェスチャーわからない。
挑発なのか、
はたまたエールなのか
むしろリスペクトなのか
あの翔吾のマイク啖呵で
もしかしたら友情に近いものまで感じたかも知れない
◆ 大塚俊 (坂東龍汰)
舞台挨拶で初めて坂東さんを生で拝見したのだが、こんなに柔和な人が、頭脳ボクサー大塚役をやってたのか!ギャップに驚いた。
翔吾と対戦しなくても、中西と戦うことができたのに、それでも翔吾を倒さないと前に進めないという高いプライドと強い信念があった。それだけでかっこいい!
試合でまだまだ!と立ちあがろうとするが敗れる。そのあとの、ありがとう…に心が打たれる。
◆佐瀬健三(片岡鶴太郎)
真拳三羽からすのひとり
独居老人のやさぐれ老人だったが、
でもどこか、昔の栄光が捨てきれてない
「俺にはお前らと過ごしたあの頃がすべてだった」
「ボクシングはもっと良いもんだろ」
とても名言が多い役。
将吾と仁一の張り詰めた空気を和らげようとしてるようにも見える。
山の子ジムの山下に
「佐瀬さんのお願いならなんでも聞きます」
と言われていたので、
実はとても3人の中では人望のある人だったのかも知れない。
子どもたちにボクシングを教えるという
第二、第三の新しい人生のシンボルになっていた。
◆藤原次郎(哀川翔)
真拳三羽からすのひとりで、やさぐれ。
言葉の節々にから汲み取れるのが、どこか仁一をライバル視していたのだろう。
だからこそ、翔吾の対戦相手のコーチを引き受けたのかもしれない。
◆広岡佳菜子(橋本環奈)
高三からずっと父(仁一の兄)を介護する。
美女キャラが多かったがだいぶオーラを封印し、
幸薄さが出ていた。
父親が亡くなって、あー!!と叫んでたの良かった。
家が取り壊される光景を背に
生まれ育った地元の祭りを立ち止まって、じっくりみることもなく、振り返ることもなく去っていく。
思い残すことは、ここにはない。
そんな姿はかっこよかった。
翔吾の母とは、マフラーの好みを当てたり
どこか埋まらない穴があるもの同士で分かり合えたのかも知れない。
展開に重要なら役どころではないながら、男臭い劇中に唯一緩和剤のような役割をしていた。
◆真田令子(山口智子)
将吾に対して前向きではなかった。
最後、仁一に何か言いかけたのが何だったのか気になる。
ひとつだけ、残念な点は
試合の終盤のスロー効果はない方が良かった。
これだけの描写力と力のある演者なので、映像効果に頼らなくても迫力は伝わったはず。
実際に行われる試合に忠実であってほしかったからだ。
次郎も令子も
つまり敗れたサイドに立っていたが
最後の試合で翔吾の勝利を喜んだ。
試合に勝ち進むと、色んな人の思いも背負うことになる、
と言うのはこの事なんだと思った。
最後のシーンはボクサーを引退したのか、スーツ姿だ。晴々しく社会人再々デビューだ。
「あぁ、もう翔吾の試合は見れないのか。きっと続編はないんだ」
と寂しい気持ちになるほどだった。
※セリフは若干違うかも。ご了承ください。