「映画感想書きのジレンマ」春に散る シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
映画感想書きのジレンマ
まず最初に言っておきますが、私はこの作品を見て満足しましたし、好きな作品です。
何故このような前置きをするのかと言うと、ここ何十年か映画の感想を書く習慣が出来て、自分の思いを文章で書き始めると、自分の感想がどの方向に向かっていくのか分からず、とりあえず様々な思いを書いているうちに、映画そのものは面白く見たにも関わらず、感想自体が思っていた内容とは全く違う方向に行ってしまうことが多々あります。で、本作も決して貶すような感想など書きたくはないのですが、何故か嫌な予感がするのです。
何故そんな予感をしてしまうのか?を考えたのですが、恐らく私の感想は自分自身の中にある様々なデータに対して様々に比較分析するタイプの感想であり、結果的に最近の邦画でのボクシング映画と必然的に比較してしまい、そして私の好みからすると他の作品に軍配を上げてしまうからなのでしょうね。なので、そのことを踏まえて読んで頂けるとありがたいです。
そして近年の私が見た邦画のボクシング映画をあげると『百円の恋』('14)、『あゝ、荒野』('17)、『アンダードッグ』('20)、『BLUE/ブルー』('21)、『ケイコ 目を澄ませて』('22)、など傑作と呼ばれる作品ばかりで、私の性分としてついついこれらの作品との違いを見てしまうのです。
まず『あゝ、~』と『アンダー~』はテレビドラマの劇場版で、かなりの長編です。他の3作品の上映は(私の記憶では)ミニシアターだったと思います。本作は最初からシネコン上映でした。
ミニシアターは大半映画好きが来る小劇場です。シネコンは老若男女、映画に対する興味は問わず大衆をターゲットにした大型劇場です。見る層に違いがあれば、作り手は当然作り方を変えてきます。本作はその通りシネコン観客層に合わせた作りになっていました。なので、非常に分かりやすく出来上がっていました(これは褒めています)。ミニシアターの観客層の場合は作り手の自由度の幅が広がります。何故なら観客は受け取るだけではなく色々と考えてくれるからです。なので、様々な説明を省略でき、そぎ落としの美学を実践可能となるのです。で、今現在の私はというとそちらの方を好んで見てしまうのです。
あと、原作ありかオリジナル作品かで作風が変わってくるのですが、原作ありは『あゝ、~』と本作の2作品になりますが、『あゝ、~』は前後編合わせて300分超えで、本作は133分であり、原作の面白さは時間の長さにある程度比例して、短いとエピソードの味わいよりもストーリー展開の面白さに比重を置く形となるが、瀬々敬久監督は巧みにバランスをとってはいても、各々の登場人物のエピソードが薄味にならざる得ないという感じでした。
もっともっとエピソードを切り捨てた方が良かったかも知れません。
だって(原作は未読ですが)本作の主人公って間違いなく(恐らく)佐藤浩市の筈ですよね。本作で私が気になってしまったのは、映画ではその辺りが(横浜流星が主人公のようであり)あまりにも曖昧に感じてしまったのです。
とまあ、商業性と作家性の綱引きは作り手側だけでなく、鑑賞者側にもかなりあるということで、好きな作品なのにも関わらず文章にすると私の場合こんな感じになってしまうのですよ(苦笑)