「交錯するそれぞれの想いが焦点を結ぶ」春に散る 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
交錯するそれぞれの想いが焦点を結ぶ
沢木耕太郎の小説が映画化されるのは初めてとのこと。原作は新聞連載時に読んでいた。
原作では佐藤浩市演じる広岡が単独主役だが、今回の映画化では、横浜流星演じる黒木がダブル主役の扱いになっている。
かつての仲間を訪ね歩いて、「元ボクサーの養老院」を作るまでの過程も、原作では読み応えのあるところだが、そこはすっぽり省いて、その分、黒木のキャラクターをかなり膨らませている。それでも、ボクシングのテクニック、マッチメイキングの裏事情などの描写を含めて、沢木耕太郎ならではのテイストはちゃんと残っている。
映画としての時間的制約のせいか、人物造形は浅い感じがするが、戦う者たち、そしてそれを見守る者たちのそれぞれの想いが交錯し、最後にはタイトルマッチの一戦に焦点を結ぶ。一瞬に賭ける姿の清々しさ。敗者が試合後、相手に「強かったよ」と言うあたりも、原作者の思いをしっかり受け止めている感じがした。
佐藤浩市は枯れた味わいを出せるようになってきた。横浜流星と窪田正孝の本物感も見事。山口智子と坂井真紀もいい味を出していた。哀川翔は、原作での二人分を合わせた役で、ちょっと無理があった。
ラストシーンは、黒木にスポットを当てた映画としての創作で、なるほどと思いつつも、なかった方がすっきりしただろうにと思った。
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