「Life Goes On」春に散る ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
Life Goes On
格闘技経験者が集う渋さ全開のボクシング映画。宣伝があまりされてないのがもったいないくらいの良作でした。
若い頃にボクシングを辞め、アメリカに渡米し、再び日本に帰ってきた仁一、居酒屋でパンチを食らわせた翔吾が弟子入りを志願し、お互いの夢のために歩き出すが、仁一は病気を抱えており…といった感じのストーリーです。
ボクシング1本に絞りつつ、登場人物のバックボーンを掘り下げ、試合と共に成長を描くというのはとても王道ですが見やすくて良かったです。少し端折りすぎかなーと思う場面があったのは惜しかったです。
役者陣の熱がビシビシ伝わってきました。横浜流星さんの肉体は完成されてますし、パンチのキレや避ける動作にとても見応えがあり、プロのライセンスまで取っちゃってるので本格的にこういうアクション路線に舵を切ってきたなという印象です。獣のような目つきで対戦相手を捕らえにいくのがこれまたカッコいいです。
佐藤浩一さんのザ・師匠な風格が本当たまらないです。パンチのキレも健在ですし、時に厳しく、時に優しくを貫く姿が渋かったです。
片岡鶴太郎さんの気のいい爺ちゃんぷりも見応えありです。ギスギスした空気を分断し柔らかな雰囲気にして、対立が起きると宥める側に回る、この作品の良心と言っても過言じゃない存在だと思います。
橋本環奈さんは普段の役柄とは全然違う幸薄そうな表情に仕草、ここまでの顔を広げられるとは…恐れ入りました。どんどんこういう役が増えていけばいいなと思いました。
窪田正孝さんの強キャラ感も素晴らしかったです。もう少し登場頻度が多ければ深掘りできたのになとは思いましたが、チャラさと強さを同時採用していてそれでいてボクシングも達者ときたらもう文句の付け所なんて微塵もありません。
翔吾vs中西の対戦、これは激アツでした。真っ向勝負、小細工なしのぶつかり合いに観ているこちらも固く拳を握りしめていました。
仁一から学んだ攻めと守り、これまで戦ってきた相手との経験を活かした考えるボクシングと直感のボクシングをフル活用して挑む姿が絵になっていました。目を怪我して失明の危機がありながらも、その傷を増やしながらも勝負を止めない姿は心を打たれました。血を垂らし吐きながらも、お互い生きるために戦い続ける、「勝負」ってこれだよなと再確認することができました。防御を捨て、フルアタックで打ち込むシーンは鳥肌物です。
ただ、終盤はスローモーションでの打ち合いになってしまったので、そこまでの高ぶりがシュンと沈んでしまったのが残念でした。最後まで魂の殴打を続けて欲しかったんですがこればかりは仕方がないのかなと思いました。観客をマジマジと映さんでもいいのになと5分くらい思っていました。これは邦画の悪い癖です。
「春に散る」というタイトルの時点で、ある程度どのような終わり方になるかは予測できていましたが、桜の木に沿って倒れている仁一の姿と共にタイトルが出る流れは味があるなと思いました。その後に翔吾の半年後の姿が映されますが、ここは正直無くても良かったかなと思いました。未来へ繋ぐという演出だとは思うんですが、そこまで映さなくていいのにという気分になってしまいました。
地味に食事を大事にしているシーンが多く描写されていたのが好印象で、仁一特性のカレーがまず美味しそうですし、佳菜子の手作りのお弁当がとても美味しそうでしたし、食堂で出されるランチも美味しそうでしたし、ここの力の入れっぷりはプラス評価です。
熱を帯びた邦画を観れてとても良かったです。血で血を洗うボクシング、全員が命をかけて映画に向き合ってくれたからこそ今作が誕生したんだと思います。まだまだ邦画も強く進み続けてほしいです。
鑑賞日 8/30
鑑賞時間 12:30〜14:55
座席 J-28