「散るほど燃える!そして咲く!」春に散る えさんの映画レビュー(感想・評価)
散るほど燃える!そして咲く!
居酒屋で騒ぐ若者、それを軽く懲らしめる男。それを目撃した若者。教えを乞うも断られる。課題をクリア、その熱い思いに打たれて師弟関係が築かれていく。目新しさは無いが、逆に非常に分かりやすい。
キャラクターも立っている。キャスティングが良くて、俳優自身の存在感とキャラクター性が上手く噛み合って分かりやすさ度に加算がされている。
片岡鶴太郎が良い立ち位置にいて、登場人物達の関係性や動きを上手く誘導していて便利そうだった。鍛えられた身体にも説得力が出ていて良かった。当初の役柄は酒に溺れていたはずだが。笑
他の登場人物達もそれぞれに役割があり、無駄がない。
ボクシングのシーンも迫力があって良かった。違和感が無いレベルで試合として見ることができた。試合前は高圧的、若しくは余裕綽々な表情をとっていても
リングの上では正に死闘。醜くても、なりふり構わず己を曝け出して、相手に向かっていく。
天才性を発揮しているような実力者も裏では血の滲むの努力を絶え間なく繰り返しているからこそ、その立場にいるのだ。というのがしっかりと描かれていて学びになる。
気になった点
横浜流星がそこまで熱狂的に生きる理由に対する背景が薄い。母親は問題はあるかもしれないが、普通に働いているし、親子の関係も良好である。
ボクシングについても多少過去の試合の説明はあったが、描写が無いため未練や熱意などの原動力を感じ取れない。
なので佐藤浩市に拒絶された後に食い下がって熱弁するシーンでも、何か頑張って言ってるな。程度にしか熱が伝わってこない。
最後の試合も、死力を尽くしながらも、本当にただ試合をしているだけである。お互いに何かを背負ったものがあったり、応援してくれる人の声があったり、負けられない理由があったり、そういうのが入ってこないので正直(興味が薄い方の)どちらが勝っても良い試合だった。
師弟関係に亀裂が入りそうで入らない。挫折しそうで挫折しない。映画全体を通してとても順調に、順風満帆に成功していく。
家庭持ちとの一戦、横浜流星は相手の妻と子の応援が目に入り、攻勢を弱めてしまう。それを見た佐藤浩一は辞めちまえ。と一喝する。
クライマックスの一戦前、目の状態から出場と棄権意見が分かれて激しく喧嘩など、一時的な亀裂が入る。ここらへんでドラマ性が生まれそうになるのだが、すぐに仲直りしてしまう。
試合が頓挫しかけた警察沙汰の件も土下座で即解決する。
ボクシングも結局主人公は一回も負けない。初っ端のジムでの大塚(坂東龍汰)とのスパーリングで出鼻を挫かれるのかと思えば、ダウンさせてしまう。ここで主人公の才能を示したんだろうが、最後の圧倒的な実力差があるとされている中西(窪田正孝)も怒涛の攻防の末、こちらも勝ってしまう。春に散る、って勝っちゃうんかい。と思ってしまった。
当初の佐藤浩市の「不公平なんていくらでもあるぞ」という言葉は一体なんだったんだろうか。
最初にも書いたがストーリー展開が王道すぎる。
・綺麗なジムに入会するかと思えば、そこのホープを倒し入会を断られる。
・仕方なく知り合いの小さいジムを拠点とする。
・ヒロインは最初ボクシングに対して恐怖を感じるが、主人公優勢になったら見方が変わる。
・礼儀を知らない天才ボクサー。
・居酒屋で応援にヒートアップする客達。
・ラストシーン、最初のテストを思い出して会話?をしてしまう。
原作は読んでいないけれど、いかにもザ・ボクシングストーリーという描写が多く、見ていて特に驚きがなかった。
他
主人公(佐藤浩市)が、ボクシングに見出した答えが以前の恩師である会長の言葉、ではなく、それを「それだけじゃダメなんだ」と否定し、思想を越えたのは良かった。
俳優陣がそれぞれ演技が上手い。佐藤浩市の佇まいは正に実力派ボクサーの過去を持つ静かな威圧感と挫折した経験、ホテル勤で得た謙虚さが姿勢や歩き方で感じ取れるたし、横浜流星も夢を追いかける熱血主人公!というキャラクターがとても合っていた。橋本環奈は目が大きくてビジュアルが妖精のようで、登場シーンの幸の薄さは少しホラー感があったが、役柄が新鮮で良かった。
また窪田正孝がとても良かった。飄々としたキャラクターと表情。でもそれだけじゃない、その中にある熱とか、鍛え抜かれた身体とか素晴らしいと思った。
春、現役を退いた男は蕾とも言える青年と出会い、その青年の夢をサポートし共に昇っていく。冬の時期を乗り越えてそしてまた春、青年は夢を実現させて満開に咲いた。
それを見届けて男は桜と共に散る。青年もまた身体に深刻なダメージを受ける。恐らく男の死を知って精神的にもダメージを受けただろう。だけどまた、青年は再スタートを切り芽吹く。また花を咲かすために、走りだす。
ということか。