劇場公開日 2023年9月1日

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「ほっこり、ゆったり、じんわり」こんにちは、母さん おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ほっこり、ゆったり、じんわり

2023年9月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

単純

幸せ

公開日は他作品を優先してしまったのですが、みなさんのレビュー高評価につられて遅ればせながら鑑賞してきました。公開から1週間が過ぎての休日ファーストショーでしたが、中高年を中心にけっこうな客入りでした。ただ、上映中にスマホを見る、着信音が鳴る、しゃべる、トイレに行く…なんて人が多く、マジで勘弁してほしかったです。

ストーリーは、職場では神経をすり減らし、家では妻と娘に出ていかれ、悩める日々を送る会社員・神崎昭夫が、久しぶりに訪れた下町の実家の足袋屋で、母・福江の様子が変化していることに気づき、恋や生きがいを見つけて前向きに暮らす母やその支えとなっている周囲の人物との交流を通して、自身の生き方を見つめ直していくというもの。

最近は老いらくの恋も珍しくなくなってきました。でも、息子からすれば、母は母であって女性としては見ていないので、福江の恋に狼狽する昭夫の気持ちはわからなくはないです。しかし本作は、そこにスポットを当てているわけではなく、福江の生きる希望の一つとして描いている点がいいです。ボランティア活動に勤しみ、魅力的な男性に恋をして、やりたいことを精一杯やる福江の姿が素敵です。

とはいえ、その裏には、体が動かなくなり、誰かの世話になることを恥じたり恐れたりする気持ちが見え隠れします。それは、生活保護を受けず、空き缶を集めて生計を立てるホームレスの姿にも重なります。生きがいと健康、それを保障するちょっとした支援さえあれば、人は幸せに生きていけるのかもしれません。

そんな母の姿を見たからこそ、昭夫も本当に大切なものだけを手元に残したのでしょう。仕事を辞め、離婚を決め、ローンの残ったマンションを手放し、母が捨てられなかったファミコンや人生ゲームなどが残る実家で、これからは大切な母と明るく暮らしていくのでしょう。これは昭夫にとって人生の大きな断捨離であり、断捨離と書かれた掲示物の前で書類をシュレッダーにかける冒頭の姿との対比が鮮やかです。

山田洋次監督らしい人情物語で、淡々と進むストーリーの中にも下町の人々の確かな息づかいを感じる作品でした。ただ、前半は、昔の邦画にありがちな人物紹介や状況説明的セリフが多くて、なかなか乗れませんでした。気持ちが乗らないと役者の演技もわざとらしく見えて、ちょっと萎えました。それでも、中盤以降は大泉洋さん、田中泯さんらの演技に支えられて持ち直し、ラストは気持ちよく泣けました。奇しくも今日は母の誕生日。何か買って、実家に母の顔を見に行こうかな。

主演は吉永小百合さんと大泉洋さんで、本当の親子のようなやりとりにほっこりします。脇を固めるのは、永野芽郁さん、YOUさん、枝元萌さん、加藤ローサさん、宮藤官九郎さん、田中泯さん、寺尾聰さんら。

おじゃる