「陸軍士官学校の殺人」ほの蒼き瞳 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
陸軍士官学校の殺人
19世紀、冬のNY。ウェストポイント陸軍士官学校で、一人の士官候補生が惨殺体となって発見される。学校の幹部から調査を依頼された元刑事。彼に協力する一人の士官候補生。若き日のエドガー・アラン・ポーであった…。
フィクション? ノンフィクション?
エドガー・アラン・ポーが若い頃、士官学校に通っていたのは史実だが、話そのものはフィクション。
開幕の言葉で(ポー自身の言葉らしく)、生と死の曖昧を問うていたが、本作はあくまでフィクションとノンフィクションを絡ませたエンタメ。
後に作家となるポーが士官学校時代、こんな殺人事件に遭遇していたら…?
名作ミステリー小説の映画化だが、その発想が面白い。
ポーの小説は怪奇な雰囲気のゴシック小説で知られているが、本作もその雰囲気に満ちている。
ダークで重厚。寒々とした冬、人里離れた地がさらに雰囲気掻き立てる。
そこで起こった殺人事件。心臓を抉られ、首吊りという猟奇的なもの。
調査を進めると、悪魔崇拝の儀式が関与している事が…。
閉鎖的な学校幹部や口を閉ざす士官候補生たち。主人公も何か闇を抱え、風変わりな協力者…。
訳ありや怪しい登場人物たちに、王道ミステリー×オカルト。
好きな人には堪らないこの設定、世界観!
主演のクリスチャン・ベールと監督のスコット・クーパーは本作で3度目のタッグ。
タッグ作は秀でた大傑作とまではいかないものの、安定無難なクオリティー。本作も然り。
この二人の関係性もそんな感じなのだろう。キャリアベストと言うより、波長やウマが合うと言うか。
他キャストは地味ながらも印象的な実力派揃い、中でも特筆は、ポー役のハリー・メリング。どっかで見た事あるような顔…と思ったら、『ハリポタ』のダドちゃん! あの肥満っ子がスリムになって…! いじめっ子役で終わらず、クセある役を巧演するまでになって、まるで親目線(ダーズリー両親?)で安心。
さて、ネタバレチェックを付けるので、いきなり犯人を明らかにしてしまおう。
犯人は、ある名家の一族。
動機は、娘の病。医学では治せず、頼ったのは非科学。悪魔崇拝者を先祖に持つ。
娘が士官候補生を虜にし、凄惨な儀式を…。家族揃って協力、隠蔽。
全ては娘の為。
だが、やり口があまりにも異常で、同情の余地はナシ。哀れで愚か。
警察幹部から圧力を掛けられるも、地道に捜査し、事件を解決してみせた主人公。元刑事の手腕は衰えていなかった。
もっとポーも活躍し、タッグで推理を見せるのかと思いきや、渦中の娘に惹かれたり、さらには魔の手にさらされたりと、後の名作家の面目丸潰れ。
…ところが!
事件解決時点で、尺が残り30分。
急展開のクライマックス…!
殺された士官候補生は、二人。
凄惨なやり口は一見酷似しているが、同一犯ではない…?
そう、この二つの事件、連続猟奇殺人事件に思えて、犯人は別。主人公が解決したのは2件目の殺人事件に過ぎない。
では、最初の殺人事件の犯人は…?
ここで名推理を見せたのが、お待たせしました、ポー。
筆記体や話など、僅かな手掛かりから真犯人に辿り着く。
二段構成ミステリー。だから敢えて(2件目の真相は)ネタバレしたのだ。
2件目はオカルト絡みなら、1件目は復讐。
ある人物が、娘は駆け落ちしたと言っていたが、本当は違う。
娘はレイプされたのだ。そのショックから自殺。しかも、目の前で…。
仇を討つ。が、皮肉にも調査を依頼され…。
派手さは無く、終始暗いムード。展開も快テンポには欠けスロー。2時間強だが、ちと冗長を感じる。
が、怪奇さ漂うダーク・ミステリーとしてはじっくり堪能出来る醍醐味あり。これ系が好きなら見て損はしない。