劇場公開日 2022年11月18日

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「日記の代りに匂いを使って何度も過去を遡る『バタフライ・エフェクト』」ファイブ・デビルズ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0日記の代りに匂いを使って何度も過去を遡る『バタフライ・エフェクト』

2022年12月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

フランスの山間にある小さな村サンク・ディアブルに住むヴィッキーは微かな匂いを嗅ぐだけでそれが何の匂いかを正確に言い当てることが出来る鋭い嗅覚を持っている8歳の少女。水泳インストラクターをしている母ジョアンヌはある日ヴィッキーの能力に気付いて驚愕するが、長らく連絡を絶っていた父ジミーの妹ジュリアが家に訪ねてきたことをきっかけにしてヴィッキーの能力は更に進化し、匂いを辿って自分が生まれる前まで時間を遡ることが出来るようになってしまう。ヴィッキーはジュリアに関わる匂いを集めることに異常な執着を持ち、その匂いから何度も時間を遡ることで、父と母、ジュリア、そしてサンク・ディアブルの過去に潜む秘密に触れることになる。

まず圧倒されるのはサンク・ディアブルに蔓延する窒息しそうなほどの閉塞感。ヴィッキーに対する同級生達の凄惨な虐めも過去から現在に至るまでジュリアに浴びせられる罵詈雑言もリアルで、協調性が乏しかったり他人とは異なる嗜好を持っているだけで孤立してしまう絶望は世界中どこにでも転がっていることに改めてうんざりさせられます。自分の嗅覚だけで村に隠された秘密を理解しようとするヴィッキーの試行錯誤を周りの大人が全く理解出来ないことにも心底イライラさせられますが、昔起こった悲劇にヴィッキーが辿り着いた時に過去と現在がもつれて繋がる観察者効果をもたらすクライマックスに唖然とさせられた後にようやく訪れる平穏に胸を撫で下ろしました。

劇中でジョアンヌとジュリアがカラオケで歌うボニー・タイラーの“愛のかげり“がさりげなく暗示している通りLGBTQ+に根差した力強い人生讃歌。終幕にすきま風のように忍び込んでくるDanitの“Cuatro Vientos”がエンドロールを眺めている自分の胸にじわじわと染み込んできました。

よね