劇場公開日 2025年10月17日

「世界の果てを追求した怪作」次元を超える ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 世界の果てを追求した怪作

2025年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

驚く

斬新

 人はどこから来てどこへ行くのか?というテーマをスピリチュアルな映像と独特のユーモアで綴った怪作。

 時空を超越した世界観で繰り広げられる死生のドラマだが、如何せんスケールのわりに映像やドラマがチープで壮大さは余り感じられない。しかし、このチープさが一周回って味わい深かったりするのも事実で、個人的には中々楽しく観ることが出来た。

 それにしても、銀河の遥か彼方や摩訶不思議な万華鏡の空間、呪術による幻覚といったシュールで超然としたシーンが断続的に登場するので取っつきにくい作品であることは間違いない。

 また、説明不足で意味不明な個所が多々あるため、いわゆる難解な映画でもある。
 例えば、どうして阿闍梨は小指に固執するのか?トイレの便座を全裸で温めていた女性が意味する所は?なぜ法螺貝を吹くことで次元の扉が開くのか?極彩色の惑星ケルマンやミスター・ケルマンとは何だったのか?
 おそらく夫々に何かしら意味はあるのだろう。しかし、これらを一々理屈を考えながら観るとかなりフラストレーションが溜まる映画である。したがって、軽く受け流すくらいの感じで観るのが丁度いいのかもしれない。それでもドラマの核となる部分は、ある程度理解できるようになっている。

 実際、物語の主軸は意外にシンプルで、いわゆる失踪者を捜索する探偵物のようなプロットになっている。
 現世から解き放たれようと次元の果てを目指して失踪した狼介。そんな狼介を死して尚、引き戻そうとする恋人・野々花。死んだ野々花から狼介の捜索を依頼される殺し屋・風。そして、次元の果ての謎を解き明かそうと、狼介と風を”けしかける”カルトの教祖・阿闍梨。夫々の思惑が現実と幻想、時空を超えて交錯する。

 まるでキツネにつままれたようなラストが面白い。観た人によって様々に解釈できるエンディングで、個人的には阿闍梨が言うように風は狼介の呪術にまんまとハマった…と解釈した。

 製作、監督、脚本は「PORNOSTAR ポルノスター」、「青い春」、「ナイン・ソウルズ」、「空中庭園」の豊田利晃。自分はこの辺りで作品を観るのが止まってしまったが、その後、氏はプライベートで色々な問題を起こして暫く活動休止の状態に追い込まれてしまった。ようやく最近になってドキュメンタリーや自主製作という形で短編を発表し、今回の長編製作に至ったということである。ちなみに、その短編はシリーズ物となっていて本作はその集大成ということらしい。もしかしたら、そちらを観れば本作の理解は更に深まるのかもしれない。

 最も印象に残ったシーンは、狼介が過去を振り返りながら雨の中を歩く場面である。「PORNOSTAR ポルノスター」のナイフの雨、「空中庭園」の血の雨等、やはり雨のシーンを印象深く撮るのが豊田監督は上手い。

 キャスト陣は、いわゆる豊田組の常連で固められている。狼介を演じた窪塚洋介、風を演じた松田龍平、阿闍梨を演じた千原ジュニア、鉄平を演じた渋川清彦等、アクの強い俳優陣が夫々に存在感を見せている。他に、マメ山田、板尾創路も常連組と言えるだろう。また、東出昌大が信者の一人で登場するが、ぱっと見て彼と分からない風貌で後になって判明した次第である。

 エンディングはThe Birthdayの「抱きしめたい」。フロントマンの故・チバユウスケ繋がりで言えば、ミッシェル・ガン・エレファントを全面的にフィーチャーした「青い春」が想起された。

ありの