「はみ出して生きる美学」アイアム・ア・コメディアン shinさんの映画レビュー(感想・評価)
はみ出して生きる美学
確かに村本大輔をテレビで見なくなって久しい。だがそれは彼自身が望んでいたことだと思っていた。
「テレビに出ている彼らはコメディアンではない。タレントだ」と言っていたが全くもってその通り。
村本大輔のネタはテレビ向きではない。笑いに政治を絡めようが絡めまいが、笑いの琴線は人それぞれなので、向かない人は文句も言いたくなるだろう。ただコメディアンという職業にこれだけ純粋に真剣に向き合っている芸人はなかなかいない。テレビ受けしたくて日々努力しているお笑いタレント。テレビにそっぽ向かれても、自分の信じた道を進もうとする芸人。どちらがいい悪いという話ではない。
不器用でもまっすぐな生き方をしていたからといって、いつか報われるとは限らない。「不器用で」「まっすぐで」そんな生き方しか出来ない。だから周りに合わせることができない。故に周囲からは「はみ出して」生きているように見えるだけで、彼、村本大輔は至極真っ当に自分のやりたいことをやっているだけなのだろう。
辿々しい英語でジョークを並べ、全く無反応なときどんな気分だっただろう。
辿々しい英語で必死に想いを語り伝え、客席から笑いが起きたときどんな気分だっただろう。
日本語の独演会でも、早口ではあるが決して流暢とは言えない語り口。時には言葉に詰まり滑舌も悪く、時には聞き取りづらく「えー」とか「あー」でごまかしたり。客席は次の言葉を待ち固唾を飲んで見守っているほんの一瞬の間があったり。とにかく見ていてヒヤヒヤしてしまう。
だけど、そんな彼の一生懸命な姿は、応援したくなる。背中を押したくなる。黙って見守りたくなる。思いっきり抱きしめたくなる。
自分の好きなことを自分で決めて自分で進んでいく生き方を「はみ出した生き方」なんて言ってはいけない。
誰かが言っていた。
「みんな村本大輔になればいい」 と。
本作鑑賞後、なぜか目頭が熱くなっていた。鼻を啜っていた。
なんだかとても幸せな気分になった。