「最後の20分がすばらしい」アイアム・ア・コメディアン たけさんの映画レビュー(感想・評価)
最後の20分がすばらしい
とっても心動かされる映画でした。
村本大輔さんに3年間密着して、それぞれが濃厚なエピソードなのだけど、それが効果的な編集、適切な長さで紡がれていく構成が見事。
監督は恐らく撮影を始めた時点で、どういうゴールになるか見えてなかっただろうし、実際、撮影の途中でコロナ禍になって、村本さんにもそれまで以上の障害が立ちふさがってきて心が折れそうになる、その間の心の動き、迷いや悩みもうまくカメラがすくっています。(閉じられたドアの向こうでの会話だけが聞こえる印象的なシーンもある)
そうやって村本大輔の人物像をしっかり描いたうえで終盤、離婚した両親が登場し、それぞれが村本さんと会話して、父親との食事ではお互いがどんどん喧嘩腰になっていく、「ああ、いつもそんな感じなんだろうな」という場面。これがある意味、伏線になっている。
そしてクライマックスの20分(くらいだと思ったけど)…2つの独演会、ひとつはLINE CUBE SHIBUYAの大きなステージ、もうひとつは比較的小さな店。この2つのシークエンスが正に圧巻で、最後の最後、胸が締め付けられるようなラストシーンへとつながっていくのです。
序盤で村本さんが「悲劇の中にこそ喜劇がある」みたいなことを言って、それは当時の日本で言えば地震や原発事故の被災者、アメリカでは黒人差別の当事者をイメージして出てくるわけですが、それがコロナ禍という世界的悲劇を経て、最後は村本さんの個人的な「悲劇」に至り、それをいかに笑いに変えるか、自分はそれを喜劇に変えるようなコメディアンでいられるのか、そういう葛藤を抱えながら、彼はこれからも生きていくことになる…
「アイアム・ア・コメディアン」というタイトルの意味を突き付ける見事なエンディング、すばらしい構成でした。こういう作品を見ると、ドキュメンタリー映画ってすばらしいなと改めて思えます。