「地平線は下か上に!」フェイブルマンズ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
地平線は下か上に!
巨匠スティーブン・スピルバーグの自伝的作品ということで、どんな内容なのかと期待して鑑賞してきました。
ストーリーは、家族と観た初めての映画のとあるシーンに強烈なインパクトを覚えた少年サミー・フェイブルマンは、自宅でおもちゃを使ってそのシーンを再現し、それを8ミリカメラで撮影したことをきっかけに、映像制作の魅力に触れ、数々の作品制作を通して、さまざまな人々と出会い、映像のもつ力に気づき、その道で生きていくことを決意するというもの。
映画の中の衝突シーンが脳裏に焼き付き、まだ幼いサミーが映像制作に一気に心を奪われていく様子が印象的でした。その後も友達を集めていくつもの作品を作っていくのですが、撮影のアイデア、編集の工夫、演者への指導など、すでに監督としての片鱗とその後の作品の素地をうかがわせる描き方がなされているところに巧みさを感じました。
一方で、映像のもつ力を経験として感じ取っていく様子もしっかり描かれています。サミーが巧みな編集で、母の浮気を隠したり、逆にカットしたシーンをつないで母自身に感じ取らせたり、級友を虚像で賞賛したり、逆に貶めたりしています。映画は、現実をベースにしながらも虚構を描き出し、人の心を大きく揺さぶり得るものだということを、経験則として学んでいったように思います。その撮り方、観せ方しだいで、いかようにも表現できるのだと訴えているようでした。それは、ラストの「地平線の撮り方」にも繋がっているように感じました。
本作は、スピルパーグの映画監督としての原点が知れるという点で、とても興味深い作品でした。ただ、残念なことに映画としてはおもしろみに欠ける印象でした。大した起伏もなくサミーの幼少期から青年期が描かれるだけで、スピルバーグ監督や彼の作品に関しての予備知識がないと楽しめないと思います。自分も、あとで他の方のレビューを読んで、スピルバーグ監督作品との関連がいろいろとわかりましたが、鑑賞中は退屈に感じる部分が多かったです。監督自身も、これが撮りたかったというより、映像作品として残しておきたかっただけなのかもしれません。
主演はガブリエル・ラベルで、多感なサミー役を好演。その母役にミシェル・ウィリアムズ、父役にポール・ダノと、実力派が顔を並べます。