「スピルバーグの「映画」と「母」への愛の物語」フェイブルマンズ かいぬしさんの映画レビュー(感想・評価)
スピルバーグの「映画」と「母」への愛の物語
優しい映画だったなぁ。スピルバーグらしい。
私はスピルバーグが大好きだ。『ジョーズ』以降、全てリアルタイムで全タイトルを見てきた。こんな映画監督は他にいない。そのスピルバーグの自伝的作品ということで、前々からずっと楽しみにしてきた。
自伝的映画ということだけど、ヒットした映画とかのネタは全くない。大学を中退して映画界の門を叩くまでの青春映画であり、スピルバーグの家族の物語だ。
初めて家族で映画館を訪れた時、スピルバーグ少年の心に刺さったのは『地上最大のショウ』の列車と車が激突するシーン。このアナログ特撮に魅了され、スピルバーグはこの後『未知との遭遇』や『ジュラシック・パーク』などの特撮を駆使した名作を数多く残すのだから、少年の日の強烈な印象が人生を決めたと言っても過言ではないのだろうな。
スピルバーグの家はわりと裕福で、経済的に苦労した話はないが、ユダヤ人ということで学生時代に虐められた話は出てくる。小柄で映画オタクのスピルバーグだけど、意外に負けず嫌いでやられっぱなしでないところがいいね。映像研的にリベンジしててグッド!
そして、話の中心は映画以上にお母さん。ちょっと変わり者だけど明るくて楽しかったお母さんの秘密に思春期のスピルバーグは心を痛める。
お父さんの転勤でカリフォルニアにやってきたスピルバーグは大学を中退してハリウッドの門を叩き、ひょんなことから名匠ジョン・フォード監督と会うことができるのだが、ここでジョン・フォードを演じてるのがデヴィッド・リンチだったりするから笑う。
また音楽は、スピルバーグ作品と言えばこの人ジョン・ウィリアムズ(91歳!)が担当している。この音楽にも注目だ。
『ジョブズ』の映画なんかといっしょで、成功するところは全く描かれない。だからそういうところを期待して見に来ると「これじゃない」感があるかもしれないけど、
「この物語を語らずに自分のキャリアを終えるなんて、想像すらできない」
とスピルバーグが語っているように、これは少年スピルバーグの「映画」と「母」への愛の物語。スピルバーグの映画はみんな優しいけど、その「優しさ」の原点みたいなものを感じることができた、そんな映画です。