燈火(ネオン)は消えずのレビュー・感想・評価
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燈火は消えたのかも・・・
映画は正に<燈火(ネオン)への鎮魂歌(レクイエム)>とも云うべきものだが、結局は(ネオンがなくなってしまうのは)仕方がないね的な結末は個人的に気に入ってはいない。
映画を見ながら30年近く前、(中国)大陸を旅して辿り着いた時の香港の夜景を思い出した。その頃の大陸はまだ発展途上で(個人的にはこの頃の中国の方が好きだ)、香港の夜景を見て”文明”の世界へ戻ってきたとの感を強くした記憶がある。又この頃の香港には、中国に戻ることの高揚感みたいなものも感じられた気がする。
’97に人民解放軍が香港へ進駐した映像を見て、アジアの一員として熱いものを感じずにはいられなかった。ヨーロッパに奪われたアジアの地を、やっとアジアが取り戻したんだとの思いを強くした。しかも西洋(英国)が武力=覇道で奪ったものを東洋(中国)は交渉=王道で取り戻した。さすが<中華>だと中国に畏敬の念さえ覚えたものだった。
そんな香港が半世紀も経たない内に、映画に描かれたような諦め=母親と逃避=娘の地になろうとは、思いもしなかった。
中国への返還後、香港名物のネオンは規制され、取り壊しが進んでいた。...
中国への返還後、香港名物のネオンは規制され、取り壊しが進んでいた。
根っからのネオンサイン職人だったビル(サイモン・ヤム)が死んで6週間ほど。
残された妻メイヒョン(シルヴィア・チャン)が夫の残した工房に出かけると、工房には見知らぬ青年(ヘニック・チャウ)がいた。
彼はビルの弟子だと名乗り、師匠が最近現れず、工房の家賃の支払いも滞っていると告げる。
青年のスマホには、ビルから指導を受ける青年の姿が写っている。
青年が続けて言うには、ビルは最近なにかのネオンの再現に取り組んでいたが、なにを作っているのかは教えてくれなかった、と。
メイヒョンは青年とともにビルがやり残した仕事を完成させようと取り組む・・・
といった物語で、あらすじだけ書くとしんみりしたハナシなのだが、香港映画特有の猥雑さやユルさなどが織り込まれていて、しんみり一辺倒というわけではありません。
ネオンはかつての香港の象徴であり、ネオンを題材にするのは中国に取り込まれた香港の、香港人としての抵抗みたいなものだろうなぁというのが鑑賞する前からの予想だったが、それは当たっていた。
メイヒョンが取り壊されようとするネオンにすがって、「わたしを先に殺しな」とわめくエピソードはまさにそのとおり。
ただし、そんな香港人の怨念・怨嗟のようなばかりだと映画は成立しないので、最終的には、ネオン慕情、香港ノスタルジー、さらに香港のネオン職人たちを讃える(ひいては中国人を讃える)方向に決着させ、当局の検閲を掻い潜っている。
このあたりの逞しさが底辺に流れているのことが、本作の見どころ。
シルヴィア・チャン、サイモン・ヤムのベテランふたりの存在感も素晴らしいが、へなちょこ青年を演じるヘニック・チャウもなかなかにいい。
まぁ、時折、柄本時生に見えて仕方がなかったけれどね。
監督はアナスタシア・ツァン。脚本もツァイ・ソーウェンと共同で担当してる。
表現方法が変わる中、伝統的な温かみは記録映画の中にしか生き延びる場所はなかった
2024.1.25 字幕 京都シネマ
2022年の香港映画(103分、G)
ネオン職人の夫の死を受けた妻の再生の物語
監督&脚本はアナスタシア・ツァン
原題は『燈火闌珊』で「薄暗く消えかけのネオン」と言う意味、英題は『A Light Never Goes Out』で「ネオンは決して消えない」と言う意味
物語の舞台は、SARS蔓延後の香港
10年前にネオン工房を閉めた夫チャンビル(サイモン・ヤム、若年期:ジャッキー・トン)が他界し、妻メイヒャン(シルヴィア・チャン、若年期:アルマ・クォク)は人生を見つめ直す日々がやってきた
夫との思い出に耽る中、一人娘のチョイホン(セシリア・チョイ)は、婚約者のロイ(シン・マク)とともにオーストラリアへの移住を決めていた
ある日、閉めたはずの工房の鍵を見つけたメイヒャンは、その鍵を持って工房へと向かう
誰もいないはずの工房には若い男レオ(ヘニック・チョウ)がいて、彼は夫の弟子として、彼が残した仕事を続けていると言う
だが、家賃や光熱費は滞納し、彼は自らの命でケジメをつけようと考えていた
メイヒョンは代わりに工房の維持費を捻出し、一緒に「夫の最後の仕事」を手伝うことになった
そんな折、チョイホンはロイを連れて母に会いにきて、結婚して移住すると告げる
突然の出来事に驚きを隠せないメイヒョンだっだが、それを受け入れるしかなく、金にならないネオンを続けていることで娘とも険悪なムードになってしまう
さらに、夫の遺品を整理する中で、彼が出せなかった女性宛の手紙を見つけてしまう
宛先は「リウ・ミウライ(ミミ・クン)」となっていて、メイヒョンは事の真相を確かめるために会いに行くことになった
だが、彼女との関係は想像していたようなものではなく、ミウライは認知症の夫(チェン・ツゥアン)の治療のために「思い出のネオンを再生しよう」と考えていたのである
物語は、法改正によって撤去を余儀なくされたネオン業界を描き、そこでLEDに転身せずにこだわりを持ってネオンを続けてきた夫との日々を回想する流れになっていた
回想と現実パートを思った以上に行き来するものの、そこまで混乱するほどではなく、物語はシンプルなものになっていた
エンドロールでは現職のネオン職人さんや、本作の慣習に携わった職人さんなどが登場し、100万ドルの夜景を担ったネオンの数々が映し出されていく
工房の屋上で1日限りで再現されたネオンは圧巻で、それを見るための映画と言う感じがした
いずれにせよ、そこまで複雑な物語ではないものの、ネオンが消えていく理由とか、香港のSARSの影響などを念頭に置いておかないと意味がわからないシーンも多い
ある意味、ネオンの記録映画的な部分もあるお仕事系なので、そう言った部分に興味がある人向けとなっている
業界自体が存続が危うく、レオもこの業界で生きるならLEDへの転換を受け入れないと仕事としては成立しないだろう
ネオン懐古的な趣がメインで、消えゆく伝統と変わりゆく表現方法について思いを馳せると言う意味では鑑賞の意味はあるのかもしれません
ロマン過剰なれど
01年から08年までを過ごした街であり、香港の現代劇にはどうしても甘めになる。最後の訪問が19年、まだネオンの名残はそこここに見られたし、ネイザンロードなどのいくつものネオンが失われていたことを改めて知る。
ストーリーは甘く、仕掛けられたいくつもの小技にも嫌味はない。特殊すぎる時代背景をもつ香港ながら、昭和を知る日本のオッサンにも響く側面も多かった。サイモン・ヤム、クタクタのシャツ着ててもカッコ良かよ。シルビア・チャン、流石に老けたけど品があったよ。娘の名前、チョイホンは彩虹と書いて、工房の窓の七色のネオン管を想起させた。あと、箸でどんどん他人の御椀におかずを入れていく様子、設定が頃な前なのか不明ながら、いかにも香港らしい。
(さらば宇宙戦艦ヤマトに幻滅したあとで口直しに突然鑑賞。満足して帰路につくことができました。)
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