「ミルチョ・マンチェフスキの新作が日本で観られるとは」カイマック 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
ミルチョ・マンチェフスキの新作が日本で観られるとは
東京国際映画祭で鑑賞。ミルチョ・マンチェフスキの作品が日本で観られるのは何年振りなんだろうというくらい久しぶり。本作は、重厚かつ斬新な構成で運命に翻弄される人々を描いた『ビフォア・ザ・レイン』とは異なるテイストで、大人の恋愛を滑稽に描いたコメディ作品だった。
マケドニアの高級な集合住宅に暮らす夫婦と隣の安い集合住宅に住む夫婦がいる。金持ち夫婦の妻は、自分で妊娠することを嫌がり、親戚の娘に代理母出産をさせる。隣の夫婦は倦怠期を迎えていて、夫は市場でカイマックを売っていた女性と自宅で浮気。情事の最中を妻に見られるが、妻と不倫相手が行為にふけりだして3人での奇妙な共同生活が始まる。
どちらの夫婦にも「異物」の住人が加わることで、関係性が壊れていく。決まりきった夫婦の型を崩すことでお互いの本性があらわになっていく、監督はQ&Aで「偽善のマスクを外し、中産階級が見せたくないものを見せようと思った」と語っていたが、まさに虚飾が剥がれていく様子に人間の滑稽さが全開に描かれていて、一級の人間観察による見事なコメディだった。
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