「なかなか手が届かない「理想郷」の遠さを痛感する一作」理想郷 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
なかなか手が届かない「理想郷」の遠さを痛感する一作
田舎暮らしにあこがれて移住した先が閉鎖的な共同体で、新参者がいびり倒される…という状況はSNSや報道の話題として見聞きすることはあるし、そうした排他性や因習を題材にしたホラー作品も決して珍しいことではないけど、内容を踏まえれば皮肉としか言いようのない本作もまた、一見そうした閉鎖性の恐怖を扱った作品であるかのように思えます。少なくとも冒頭では。
だがしばらくして、理想の農業の実現に燃える二人の移住者、アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とオルガ(マリナ・フォイス)の側も、共同体の事情を顧みず我を通したり、非友好的な言動で住民に接したりと、「どっちもどっちじゃん…」と思える側面が見えてきます。
アントワーヌと住民の男たちとの緊張が高まっていく状況を描くのが前半部なら、後半は一転してオルガの視点で物語を綴っていきます。そして家族の反対を押し切ってでも彼の地で農業を続けようとするオルガの姿に、「理想郷」という題名の意味が重くのしかかってきます。
ポスターでは新天地の「地獄」さ加減や都会と田舎の対立を打ち出すような文句が踊っていますが、観終わってみるとちょっとそうした単純な対立構図では捉えきれないものを感じました。
嫌がらせの手法がやたらと手が込んでいるので、「そんな仕込みしてる時間があるなら話し合えよ!」と思わなくもなかったんですが、この物語って実際の事件に基づいているんですよね……。
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