「ひとつの映画でふたつの映画を見た」理想郷 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとつの映画でふたつの映画を見た
最後、アントワーヌの妻オルガの笑みが映し出されたと同時にいい映画を見た喜びに包まれた。
ヨーロッパの国の人なら多分殆どが持つであろう、フランス語やフランス人に対するある特殊な思いが強烈に出ていた。すかしやがって。カッコつけて。高慢ちき。憧れと羨ましさも少しないまぜ。でもアントワーヌの「ここは僕の故郷だ」も「村の人の為になりたい」もむかつくほどあり得ない発言だ、たかだか2年しか住んでないのに。来る前にもっと徹底的にスペイン語を勉強してこいとも思った。若い人間が皆離れていく過疎の村に孫もいる年齢のよそ者がエコだ、オーガニックだとEUの手下のように偉そうに振る舞うな!庭でチェアに座って読書、湖では湖岸で寝そべったり泳いだり。そんな典型的バカンス行動も✖️でした。あの兄弟は極端だが間違ったことは言っていない。
でも完璧な人間なんていない。夫アントワーヌの欠点も含め愛していたオルガ。娘になじられても決して曲げない強さを持っている。淡々と静かで粘り強い。そういう自分に誇りを持っているから、フランスにいる自分の昔の友達が自分をなんと言おうが気にしない。彼女はもうそんな友達なんて要らない人間になっていた。そのことを娘は心から身にしみて理解した。このシーンはとても良かった。
嫌がらせもするが(兄弟の最後の仕打ちは許せない)、面と向かって何が気に食わないのか、なぜなのか、憎しみや軽蔑や傲慢や劣等感もぶちまけつつ、自分が思うことを相手に言葉で直接伝える場面が多い点もよかった。日本だったらそもそも言葉による口論しないで・できなくて、雰囲気圧力&無視&無言でよそ者をいびり出すだろう。
前半は音楽がなく不穏な音ばかりで怖く効果的だった。後半になるとチェロの音が流れ映画を見ている側の気持ちも変わってきた。映像も構成も脚本もキャスティングも最高の素晴らしい映画だった。