「「故郷」」理想郷 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
「故郷」
スペインガリシア州にある自然豊かな小さな村に移住してきたアントワーヌとオルガの夫婦。この地にほれ込んだ彼らは有機農業で生計を立てる傍ら、古民家を修復して過疎化に悩む村を盛り立てようとしていた。
そんな時、村への風力発電事業誘致の話が持ち上がりそれに反対した夫婦と村人との関係が険悪なムードに。
特に夫婦の隣に住むシャンとロレンソの兄弟は彼らを毛嫌いして何かと嫌がらせをしてくる。元教師のアントワーヌはそんな彼らと冷静に話し合おうとする。
だがシャンはたかだか移住してきて二年足らずのアントワーヌがこの村を故郷と言い放ったことに憤りを覚える。この地に生まれ長年暮らしてきた彼らにとってよそ者でしかないアントワーヌの発言が許せなかった。
しかし、人間にとって「故郷」とはその暮らした時間だけが重要なのだろうか。この地に根を下ろし、この地で生きてゆく覚悟を持った瞬間にその人にとってその地は故郷となるのではないだろうか。
ましてやアントワーヌはこの村を愛し、再生しようと日々努力していた。村の復興にはまず人を呼び込まなければならない。新しい住人が増えなければこのまま衰退するのみだ。シャンたちにとってよそ者である人間こそがこの村を救う唯一の手立てなのだ。
逆に電力会社の甘い誘惑に乗ってしまえば確かに一時的には住人は潤うだろう。だが、補償金の使い道について聞かれたシャンは弟と豪遊すると答える。村を盛り立てるための資金に使うなどという発想は微塵もないのだ。
財政が厳しい田舎町は電力会社にとってはいい鴨だ。補償金という麻薬で薬漬けにしてしまえば後は思うがまま。村は景観を失い電力事業に依存して自立再生はますます困難になる。教養のあるアントワーヌはそれがよくわかっているからこそ事業誘致に反対したのだ。しかし学のない兄弟たちにはそれが全く理解できない。
やがて兄弟たちの嫌がらせはエスカレートし、ついにはアントワーヌは殺されてしまう。夫がいなくなっても一人農業を続けながら、夫の行方を捜す妻のオルガ。そんな母を心配して娘は村を出て一緒に暮らそうと説得するが全く聞き入れようとしない。
父を殺したであろう犯人が住む村でこれからも暮らしたいという母の気持ちが娘には到底理解できなかった。
しかし犯人たちと鉢合わせしたとき、おびえる自分をかばって毅然とした態度を取った母の姿を見て娘は悟った。
父を愛していた母、その父が故郷と呼んだこの村がすでに母にとっても故郷となっていたことを。この地に根を下ろし、この地で生きてゆく覚悟を持った瞬間、母にとっても故郷となっていたことを。
けして犯人たちへの復讐心からこの地に固執していたわけではない、新たに羊を飼い始めたことから、そして息子たちを失うであろう哀れな母親への気遣いを見せたことからもわかる通りオルガにとってこの地は愛する夫と最後に暮らしたかけがえのない故郷になっていたのだった。
閉鎖的な村での近隣トラブルがやがて恐ろしい展開を迎える。スリリングな心理ホラー的様相をみせ始めてからは緊張感で一切目が離せなかった。サスペンスとしても秀逸だが、人間ドラマとしても重厚でとても見ごたえがある作品だった。
ちなみに補足として、調べたところによるとスペインは日本と同様エネルギーに関しては外国からの輸入に頼らざるを得ない国だったが、いち早く再生可能エネルギー事業に着手し、世界的にその導入率は5位以内に位置する。そしてこのガリシア地方はスペインの中でも風力による発電量はナンバーワンだという。もとは多くの電力を原発などに頼っていたが、世界的に次々と生じた原発事故を目の当たりにして再生エネルギー導入に舵を切ったのだという。なぜ事故を起こした日本がスペインと同じ道を歩めずむしろ時代に逆行する原発推進をしているのかは謎ではある。
レントさん、コメントありがとうございます。今月の10日あたり、レビュー入力に不具合があったように思ったのでログアウトしてログインしました。そうしたら新しい自分のサイトが誕生してしまって。その代わりログアウト以前のデータは全部残っていて見ることもできるんですが自分でアクセスできません。他人となった私です。でも同一人物で、すっきりと身軽になって昔の名前で出ています。今後ともよろしくお願いいたします