「Tenacity」理想郷 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
Tenacity
田舎に移り住んだ都会の人が嫌がらせを受けて、村人たちとぶつかり合う、予告やフライヤーからはそんな感じの印象を持ったのでヘビーになるだろうなと思いながら鑑賞。仕事終わりだったので、140分いけるか?と身構えながらでしたが、全然余裕でした。もう目が冴えまくりでした。
都会から移住してきた元教師のアントワーヌと妻のオルガ。村八分とまではいかずとも、村人からは嫌がらせを受ける毎日。それには村人と余所者の物事の捉え方の違いがあって…みたいな感じのあらすじです。
夫婦と村人の揉め事の原因は、風力発電の設置での対立である事が序盤に明かされます。
確かに、後から移り住んできた人たちが反対して、他の多くの村人が賛成しているという状況で、風力発電の設置が遠のいているとなったら、嫌がらせの一つや二つ起こってしまうのは仕方ないのかもなとは思いました。
アントワーヌもどこか上から目線で会話をしてしまうところがあり、そのせいで村人たちを逆撫でしてしまっているのに、それに気づかないという余所者の残念なところが出ていたなと思いました。カメラでの隠し撮りも下手くそすぎてすぐバレてしまう始末ですし、兄弟側に落ち度があるとはいえ、ズカズカと民家に入ってしまうのもなんだかなぁって感じでした。
フランスとスペインでの過去の戦争間の話を持ちだすのは、完全に個人的な恨みだよなーと苦い顔で観ていました。
嫌がらせをする兄弟(弟の方はなぜかステイサムにしか見えなかった)の嫌がらせの仕方がまぁ露骨で、農作物をダメにしたり、酒瓶を放置したり、酒屋で侮蔑的な言葉を投げかけたりと、50そこらの大人がやる事じゃないよなとムカーっとしながら観ていました。
風力発電の設置で貰える補助金で何がしたいとアントワーヌに問われると、街のタクシーを兄弟で乗り回すというまぁなんとも贅沢な使い方。それほど、この村にいる事は他の地域から見るとよろしくない事のようで、知識を得ずに村に閉じ込められるように生活してきた2人だからこその事情は分からんでもないなと思いました。
ただ、それにしては嫌がらせの度が過ぎており、待ち伏せて銃で殺そうと脅してきたり、つけ回ってきたりと不快さ全開でした。
アントワーヌと同じく風力発電を反対していた友人が亡くなって、甥がやってきて風力発電を促進させようとしたところから、人の愚かさが徐々に増していったなと思いました。
序盤で村人が馬をとっ捕まえて締めるシーン、馬好きの自分としては観ているのがかなり辛かったのですが、絶対にこのシーンが人に置き換わったパターンが出てくるんだろうなと思って少し覚悟はしていましたが、兄弟がピッタリとアントワーヌをマークし、近づいて首や体を締め上げて、そのまま窒息死させるという残忍な事をしてしまいました。もう絶望です。
余談ですが、前売り券の特典のポストカードの不気味な口だけのシーン、これなんだろ?と思っていましたが、まさかここに直結するとは。このデザインを採用しようと言い出した担当の人、中々にクセが強いです。
アントワーヌが殺されてから、物語は少し角度を変えたものになっていきます。ここから復讐ものに変わってもおかしくない胸糞さでしたし、実際そうなるのかな?と思っていましたが、オルガはやり返さない、それどころかそのまま村に滞在して、農作物を育てて、その合間を縫ってアントワーヌの遺体を探すという執念がこれでもかと描かれます。
娘もやってきて、オルガをこの村から離れさせようとしますが、そこは意固地になって動かないオルガ。互いが互いを心配するあまり、エゴをぶつけ合ってしまう口論にもなってしまいますが、それをなんとか理解しようとする娘のシーンも描かれた上でも、オルガの感情はどこか不透明。その間にも弟の方は絡んできたりとするので、同情する余地はありませんでした。
最終的に、アントワーヌが持っていたカメラをオルガが見つけ、それをきっかけにアントワーヌの遺体が発見されるところまでいきます。ここで証拠を突き出して、兄弟を刑務所送り!といったところで終わりそうなんですが、今作はそうもいかず。
遺体発見前に何かを確信したオルガが、兄弟に刑務所行きを伝え、その上で母親に「私と同じように孤独になるのよ」と言い放った時は、スッキリとも言えず、かといって重い落とし所ではないという不思議な感覚に陥りました。
ラストカットも母親がすれ違い様にオルガを見つめる様子、発見された遺体を見にいく表情は無感情、何かモヤモヤを残したラストが個人的には人間関係は生きてる限り続いていく、映画が終わった後も延長線上で観ている自分たちにも関わってくるという余韻になっていて良かったです。
全力で人間の負の面を演じ切った役者陣は本当に凄かったです。
ロケーション抜群な村での1ショット1ショットが美しかったですし、撮影の仕方も背景の撮り方と人の撮り方が見やすくてとても良かったです。引きで撮るショットで不穏なものを感じさせるのもナイスな演出でした。
最後にワンコ。番犬としての機能は微塵もないですが、ペットとしては最高な子だと思います。口笛一つでどこか行ってしまうくらい純粋過ぎて心配になるレベルですが笑
鑑賞日 11/15
鑑賞時間 20:20〜22:45
座席 C-3