劇場公開日 2023年11月3日

  • 予告編を見る

「移住者の夫婦に共感することも同調することもできない」理想郷 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0移住者の夫婦に共感することも同調することもできない

2023年11月8日
Androidアプリから投稿

フランスからスペインの田舎の村に越してきた夫婦は、物語の冒頭から村人と対立していて、その村が、邦題となっている「理想郷」のように感じられる場面はほとんどなかった。夫婦が、あの村に、どうしてそれほど愛着を持ち、住み続けたいとこだわるのかが、今一つ理解できないのである。
野菜を作りながら慎ましく生活し、古民家を改装して都会からの観光客を呼び込みたいという夫婦の思惑は分からないでもない。それでも、突然やって来たよそ者が反対したせいで、風力発電の補助金が貰えなくなることに対する村人の憤りは至極もっともで、ここは、夫婦の側が、多数を占める村人の意見に従うか、村を出て行くしかなかったのではないか?
それを、あくまでも自らの主張を押し通して、あえて村人とことを荒立てようとする夫婦の姿勢には、共感することも同調することができなかった。
案の定、対立はエスカレートして、取り返しのつかない事態に至るのだが、観客は真相を知っているのに、それが劇中でなかなか明白にならない展開に、徐々にイライラがつのっていく。
ここで、母親をフランスに連れ戻そうとする娘と、あくまでも村に残ろうとする母親との間で新たな対立が生まれるのだが、どう考えても、母親を気遣う娘の主張の方が100%正しいと思えてしまう。
母親は、失踪した夫を愛しているからというよりも、夫のことを殺したに違いない隣人に対して意地を張っているとしか思えないのである。
犯罪の証拠となるビデオカメラが発見されて、ようやく事件が決着するのかと思っていると、そうとはならない展開にもうんざりする。まあ、その直後に、別の形で結末を迎えるからまだ良いのだが、それにしてもモタモタし過ぎているのではないか?
結局、夫婦と対立していたのは隣りに住んでいる兄弟だけで、これといって、田舎の村型社会に特有の閉鎖性や排他性を糾弾している訳ではないし、かといって、エコでスローな暮らしへの漠然とした憧れだけで田舎に移住する都会人の思慮の浅さや軽率さを批判している訳でもない。
いったい何が言いたかったのかが分からないまま、理解し合おうとしない人間の姿にフラストレーションが溜まった映画だった。

tomato