「認知症に対してネガティブなイメージしか抱いてこなかった人も、本作をご覧になれば、見方が一変することでしょう。けっして「認知症になったら人生終わり」なんかじゃないのです!」オレンジ・ランプ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
認知症に対してネガティブなイメージしか抱いてこなかった人も、本作をご覧になれば、見方が一変することでしょう。けっして「認知症になったら人生終わり」なんかじゃないのです!
2025年には高齢者の5人に一人は認知症になると言われています。そうなると多くの人にとって認知症は身近な問題となって迫ってくることでしょう。
そこで、あなたの大切な人が認知症になったら? あるいは、あなた自身が認知症になったら? これは、39歳で若年性認知症と診断された夫とその妻の9年間の軌跡を、実話に基づき描き出す、優しさに満ちた希望と再生の物語です!
モデルとなったのは、主人公と同じ39歳で認知症と診断されながら、10年後の現在も会社勤務を続けつつ、認知症本人のための相談窓口の活動や自身の経験を語る講演などを行っている丹野智文さん。本作は、認知症とともに笑顔で生きる丹野智文さんの実話に基づく物語なのです。
認知症になった主人公を支えようとする職場や地域の仲間、そして家族の温かさに、思わず涙が溢れました。今まで認知症なんて関係ないやと見過ごしてきた人も、認知症に対してネガティブなイメージしか抱いてこなかった人も、本作をご覧になれば、見方が一変することでしょう。けっして「認知症になったら人生終わり」なんかじゃないのです!
本作をご覧になれば、「認知症になったら終わり」という偏見を捨て、「認知症になっても人生を諦めなくていい」ことを実感し、そのための手立てを見出していくことができます。
認知症本人や家族が、認知症とどのように向き合えば笑顔で生きられるのか。認知症になっても安心して暮らせる社会とは? その一つの指標となり得る本作は、年齢を重ねていく全ての人がより良く生きるためのヒントにも満ちています。
特に、認知症であることをオープンにする意義や、仕事や日常生活を続けるための工夫。「自分で出来ることは自分でしたい。困った時だけ助けてほしい」といった気持ちを伝える勇気。そして大切なことは認知症患者と家族や職場の人たちが、気持ちを伝え合うことです。それによってより良い大らかな環境が実現し、認知症の人の心の重荷を軽くすることができるのです。誰にとっても大切なのは、辛い時には周りを頼っていいのだという本作の主張に、大変共感できました。
39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された只野晃一(和田正人)は、妻の真央(貫地谷しほり)と2人の娘を抱え、不安に押し潰されそうになる厳しい現実に直面していました。そんな晃一に妻の真央は何でもやってあげようとするが、晃一は日ごとに元気がなくなっていったのです。
しかし、認知症の集まりに参加し、認知症と共存しながらも仕事や社会で活躍している参加者たちとの出会いをきっかけに真央と晃一の意識に変化が訪れます。「人生をあきらめなくてもいい」と真央と晃一が気づいたことにより、家庭や職場、地域など2人を取り巻く世界もまた、変化していくのでした。
なぜ晃一が普段通りの生活を送れるようになったのでしょうか。そこには晃一が忘却しても大丈夫にする自身の創意工夫ばかりでなく、晃一を支えようとする周りの温かい心。そして真央からの、「一人で抱え込まなくて、もっとみんなに甘えていいのよ!」という優しい言葉があったからこそなのです。
ところで、日本では認知症のシンボルカラーとして使われるオレンジ色。本作のタイトル「オレンジ・ランプ」は、“小さな灯”でも、みんなで灯せば世界はこんなにも明るくなる”という、認知症になっても安心して暮らせる社会づくりを象徴しています。そして 実際に劇中には、ランプ型懐中電灯の「オレンジ・ランプ」が登場します。真央が手にするランプは、彼女の不安の象徴です。しかし、物語の後半では、逆に晃一がランプ手にして真央に向き合う時、それは全く違う灯火となりました。彼が照らし出すのは、「ともに生きる」ことの本質です。本当の「やさしさ」なのです。
このランプは、認知症を照らすのではなく、人間を見る普遍のまなざしの灯りとなって晃一と真央のふたりを照らし出したのです。
最後に今の医療では認知症になったら回復は不可能です。しかし、認知症からの回復ではなく、ありのままの「人間」を取り戻す「人間回復」なら可能でしょう。
晃一は認知症になったことがきっかけで、人間回復し、「笑顔で生きる」ことの大切さに気付かされたのです。そして今や全国を公演で回って、自らの体験を語り、「笑顔」を全国に拡げています。
モデルになった丹野智文さんは、本当にお地蔵さまのようなお方だと思いました。
【参考】「笑顔で生きる」と涙 〜映画「オレンジ・ランプ」を観る〜
~本作モデルの丹野智文さんの初号試写体験記(リンク禁止のため検索してください。)