「普通に面白かった」ウィッシュ シーラカンスさんの映画レビュー(感想・評価)
普通に面白かった
マレフィセントや闇の鏡、白雪姫など様々なところに自分の好きな作品のオマージュが出てきて興奮した。起承転結が明確で、今作の主人公の女の子もしっかりと自我を持った子で安心した。あと今回も歌がとても良い。最後の曲で力強く歌う主人公に元気をもらえた。
私はヴィランズが好きなのだが、今回のマグニフィコ王も中々良い悪役だったと思う。なんというかパターナリズムの権化みたいな人物だと感じた。マグニフィコ王に対して驚くほど同情的な方が結構いらっしゃるが、私はマグニフィコ王は間違いなくヴィランだと思う。「自分が良いと思った善行をすれば人から感謝されるのは当たり前」「自分に逆らう者は敵」のどこが正義の味方なのか。マグニフィコ王に同情してしまった方は一度自分の胸に手を当てて「これは本当にこの人が望んでいることなのか?お節介や結局自分のためにやっていることなのでは?」という問いを自分自身にして欲しい。医療現場では度々患者の意思を無視した善意での医療行為がなされることがあるが、それをパターナリズムと言う。そしてそれは患者の意思尊重を妨げるものとして改善していくべきだと言う流れになっている。マグニフィコ王は正しく良かれと思ってやったのに、何故皆私に逆らうんだ!そしてこの反乱を止めねば私の地位も危うい!それはやばい!と癇癪+パニックを起こして禁書に手を出した挙句に禁書によって悪に傾いてしまった独善的すぎるキャラなので、私は可哀想だとは微塵も思わなかった。
そして非常に良い設定だと思ったのはマグニフィコ王とアマヤ王妃の間に子供がいない事である。とことん自分の中の偏見に気付かせてくれる映画だと感じた。男女の夫婦の間には子供がいるのが当然、王がその座を退いたのなら王になるのはその息子、という考え方が自分の中で凝り固まっていたことに気が付いた。アマヤ王妃のキャラも爽快でウジウジしてないところがとても良かった。なんというか、これは個人的な観測における感想だが様々な作品において女性は愛した男性が例え悪であっても逆らわず(逆らえず?)、一緒に悪に染まってしまうとか、相手の男性に縋ってしまうという設定が多いような気がしたからだ。彼女こそ愛した夫がありながら、彼と敵対し国と国民を愛する王妃としての決断を即座に下した王様中の王様だと私は思った。
この作品からは「自分の願いは自分で叶える」というメッセージのほかに「慣習や常識が本当に正しいのかを考える」というメッセージも含まれているのではないかと感じた。ロサスでは18歳になったら願いを王に差し出すという決まりが根付いているようで、そこに疑問を持つ者すら居なかった。私達も常識に疑問を呈したり例え論理的に反論したとしても「これが伝統だから」「これが文化であり歴史だから」と思考停止した者やその方が自分達にとって都合が良い者達から反対されることも少なくない。私は福祉の現場で働いているが、思った以上にこの社会が立場の強い人達の都合の良いように作られている現実を見てこの映画が説教くさいと感じる人は今一度自分の立ち位置や自分以外の立場の人について考えて欲しいと思った。しかしこの映画ではその伝統・慣習に対しなんの疑問も抱かず、逆らわず、マグニフィコ王の言う通りにしたところ実際に生活に支障はないものの日々の活気がなくなりアイデンティティが揺らいでしまったサイモンというキャラも登場する。私はサイモンに自分を重ねて見てしまったが、アーシャのような自分の意思を突き通す強さを持てたら良いな、と思った。長々と自分の考えばかり書いてしまったが、夢はあるが挑戦する勇気が出ない、変わりたいけど変われない、という方にオススメしたい映画だった。あともう一度言うが歌がいい。