「苛立ちを感じる映画」ウィッシュ デュラハン太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
苛立ちを感じる映画
つまらなくはない。展開のテンポが良く、それだけで楽しめる作品だった。
主人公側にツッコミどころが多く、全く感情移入ができず、観ている間は楽しさと苛立ちが同時にあった。
子供向けだから仕方ない、とも思ったが、良い子供向け作品と言うのは、単純な話を大人も楽しめるものだ…
まず、主人公の祖父。100歳でずっと夢が叶うのを待っているという。マグニフィコ王は50代前後に見える。そしてロサスを人を集めて建国したと言うから、この祖父は40代で自分からロサスの建国メンバーに入ったと考えられる。
40代。夢はギター上手くなって人の心を動かしたい。……………自分で練習すればいいんじゃない?
きっと才能なかったんだな、と自分を納得させて見ていたが、許せないのはラスト、国家転覆から3週間後、ギターで民衆を沸かせていたことである。彼は言う。「はじめたばかりなんじゃ!」…………………努力すれば3週間で叶う夢を40年間なにもしなかったって事になる。
100周年に準えて100歳にしたのはわかるけど、それでキャラクターが馬鹿になるのはどうなの?
次に、7人の仲間達がアーシャの説明を受け、王を倒す決心をして、歌う「真実を掲げ」。
威圧感のあるメロディが王の歌よりヴィランっぽかった。王は敵だ!ということを勇ましく歌い上げる。なんとなくプロパガンダを連想させた。特定の主張に取り憑かれて狂ったように同じ言葉を繰り返すところとか……思想の是非はさておき、怖い。
何より許せないのがクッキーをガンガン踏みつけて歌の拍をとる部分、アニメーターの発想に品が無さすぎてびっくりした。乱暴に顔部分を食いちぎるとか、百歩譲って手で握り潰すとかの方が嫌悪感がなかった。食べ物を粗末にするな!とディズニーアニメの味方サイドを見て思うとは思わなかった。 作った本人ダリアが目の前にいるのに、踏み潰せるのは並の神経でないように思える。彼女自身も王反逆派になっているとはいえ、友達が作ったお菓子を目の前で踏み潰すのはやさしい人のすることだろうか?
アーシャが真実を伝えて、すぐに受け入れるのも納得いかない。10年以上信じてきたことが覆された時ってもっと見苦しいと思う。物分かりが良すぎてキャラクターに魅力を感じない。個人的にはもっと叫んだり喚いたり欲しかった。
「真実を掲げ」という歌詞も、リークされたのは今日が初かもしれないが公式から出されてる情報で予想できたことだろう……叶える本人が決めるのも普通そうだし、叶えられた願いの傾向とか、統計しようとすればできるし、よく考えもせず自分の大切なものを他人に預けて利用されて怒っているのバカすぎ
ロサス、魔法というありえない前提で作られたあり得ざる美しい国だが、人の心は醜いままだった。
王の思想は元から歪んでいる。王もそれを承知で歪んでいる人の為の国を作ったのだろう。自分がおかしいと自覚していない権力者は、暴君となり他の国を侵略するのが定石だからそう推察する。
王は自分の民を信じていない。見下している。傲慢である。でも衣食住を与え、自分の能力をそれらに使い、尽くしている。
これが慈愛でなくてなんだ?ノブレスオブリージュの擬人化に見える。
王は努力の人だ。その夢は「幸せな王国をつくること」であったように思う。自分のために他者を幸せにしたかった人だ。それを叶えていた。居心地の良い鳥籠を用意した。自分より弱いものを苦しみから守るために。
…………王は自分の信念があり、魅力がある。なんで国民はあんなことになる?王が有能すぎたからだ。
国民等の不愉快・不満点
・「空を飛びたい」「ネバーランド」これが18歳の夢???いや、魔法がある世界なら叶えられるのか………それならもっと自分で魔法の勉強するとかないのかな。
・最初にアーシャは「夢を忘れるだけ、気持ちスッキリ!」と言っていた。忘れたい夢はもう諦めた夢なんだわ。諦めてないのに忘れていっか!はただただ、バカ
・18歳になって変わってしまったサイモン、この状態になった奴少ならからず居そうなもんだが危機感も抱かず、自分で国を出ようともしない。
・国を出ちゃダメ!みたいな描写はないけど、設定があったらされてるだろうし、観光客受け入れるほど開放的な国だからその気になれば密出国できそう。
・願い捧げるのが18歳なのは設定ミスだと思う。18歳は自分で判断できる大人だし、大人は具体的な夢を持つもので、具体な夢持ってる人は努力ができて、努力ができる人は自分で叶えられるなって思って出ていくように思うので、あの国には多分まともなやつがおらん。
・「子供に夢を与えること」がディズニーがこれまでしてきた事。だから18歳が10歳とかで、「子供の頃の幻想的な夢見る力を奪う」だったら、説得力がある作品になったはず。国民の碌でもなさも薄れる。子供は抵抗できないから。
・「私たちのロサス!」←王なしでロサスはありえない。
・「夢は自分で叶える!」←じゃあなんで住んでたの?
・王がめちゃくちゃ努力して魔法使いになったのによくわからん星に願って魔法使えるようになったアーシャに負けるところが可哀想でよかった
・「お前らは願いを叶えてもらうしか頭にないのか?」と言われ 笑顔でこくこくうなずく奴、人間こうなったらおしまい
・夢乞食
・ちょっと前まで尊敬してた王の悪口で盛り上がってるのクソ
・王妃、愛してたって建前なんだから笑いながら牢へ!はおかしい。もう違う奴が権力者だからどうでもいいのだろうか。どちらにしろ嫌な奴!
・自分の夢の生殺与奪を他人に委ねてる時点でダメ
こんなところかな…。
現実世界におけるディズニーの立場はマグニフィコと近いように感ずる。才能と努力を兼ね備えた人が、幸せを与えている点において。
主人公サイドの違和感に、作り手側が気づかないのは違和感があるから、もしかしたら壮大な皮肉なのかもしれないな…とか適当に考えたりした。(近年のポリコレの攻勢を受けてのディズニーの低迷を見て)
作画は、色の乗り方が皮膚が硬そうに見えた。眉毛が濃いキャラが多くそこだけリアルで、プラ製着せ替え人形の髪の生え際を見ているようで懐かしい気持ちになった。これまでの遍歴を表した面白い試みだと思うけど、3DCGにアニメっぽい塗りは相性悪いような気がした。個人の好みです。いつもの柔らかさを感じる質感のすごさを再認識。
CG自体はいつも通り綺麗だった。低評価もあるみたいだけど、私は気にならなかった。
ワンス・アポン・ア・スタジオは良かった。現実世界にアニメが居るところは、ロジャー・ラビットを彷彿とさせる。小さな笑いが止まらなかった。知らない作品のキャラクターもたくさん出ていて興味が湧いた。これをきっかけに、ディズニープラスで見るのが楽しみ。