「同時上映が良くも悪くも強すぎ、あとキャラに感情移入できない」ウィッシュ うーたさんの映画レビュー(感想・評価)
同時上映が良くも悪くも強すぎ、あとキャラに感情移入できない
■総評
満足度:★2〜3
★2がウィッシュだけの評価。
残り★1点の加算は、たった10分足らずの同時上映のワンスアポンアスタジオによるものである。
高評価の人は、ウィッシュの評価にワンスアポンアスタジオを入れて混同している人が結構いる印象。
ただ、後述するオマージュなどにも関わるので、感想には入れつつも点数は分けて考えてみた。
総じて項目ごとに感想を述べると、脚本は良い部分も悪い部分もあり、絵作りは普通、声優、テーマ、曲は大満足という感じ。
ウィッシュ本編の感想の詳細に入る前に、前提が2つある。
前提①:自分の中でディズニーは特別なものである
自分はディズニーを子供の頃から触れてきており、ミッキーフレンズのアニメや、くまのプーさん、アラジンや美女と野獣の映画をみて育った世代。
プロポーズもディズニーランドでしているくらいなので、自分の中でディズニーは特別なものである。
そういった意味で、自分の鑑賞前の気持ちを客観視すると、主人公に感情移入をして夢を叶える過程をみて感動し、自分の夢を叶えさせてくれたディズニーの100周年を一緒に祝いたいという気持ちがあったように思う。
前提②:同時上映のワンスアポンアスタジオが強すぎる
また、もう一つ大事な要素が同時上映のワンスアポンアスタジオが良すぎるという点。
内容としては、今までのディズニー作品のキャラが集まり作品の垣根を超えて集合写真を撮るという、いわばそれだけの作品だが、これが文句のつけようのない出来栄えで同時上映でウィッシュの前に上映される。
自分はすでにディズニープラスで字幕版を見ていたが、吹き替えでみると昔の作品の思い出が蘇るせいで感動はひとしおで、ミッキーがウォルトを眺めるシーンで本編が始まる前にすでに泣いてた。
ディズニー作品に心を打たれたことがある人は、ウィッシュの評判に関わらず、ディズニープラスでも今回のウィッシュの同時上映で見るでもどっちでも良いから、ぜひ見てみてほしい。
前提が終わったところで、ウィッシュ本編の感想を述べていく。
多分よかった点については割と観た人の鑑賞は似通うと思うので、気になった点から書いていく。
■気になった点
①主人公アーシャに一切感情移入ができない
この作品の一番の気になった点は間違いなくここ。
まず、「願いを叶える」がテーマの作品なのに、アーシャの願いは他人のものである。
あらすじをみると、"少女アーシャの願いは、100歳になる祖父の願いが叶うこと"と書いてあり、本人の願いではない。
祖父の願いは「音楽で人の感情を動かしたい」という素朴で美しい願いで、どちらかといえばこちらに感情移入してしまって、もはや祖父が主人公で良かったのではと思う始末(ビジュアル的には微妙かもだけど)。
「他人の願いを叶えることが願い」と聞けば、一瞬聞こえが良いが、そこに対して自分自身の能力を高めるなどの努力をする過程がある訳ではなく、王様にゴマすりで祖父の願いを優先的に叶えてもらおうとするので、利己的に映ってしまう。
ラスト以外で、途中一回王様から願いを取り戻すことに成功するのだが、国民のためを思って憤っていた割には、祖父の願いだけを取り返してくるので、なんでみんなの願いは放置してきたんだと感じた。
また、スターが能力的に3回制限のないジーニーのようなものであるため、終始他力本願でなんか良い感じにスターが色んな問題を収めてしまう。
まぁ今までのディズニーもそうといえばそうかもしれないのだが、例えば妻が大好きなシンデレラとかだと、舞踏会に出たいという願いのために動物に手伝ってもらいながら自分でドレスを縫って、その後嫌がらせで破かれてしまうという、努力と挫折の跡がある。
そういった経緯があるからこそ、フェアリーゴッドマザーに願いを叶える手助けをしてもらったシーンに心を打たれるのだ。
アーシャには自分の印象ではそういった努力や挫折のシーンを見つけられず、自分の願いも希薄で、「なんか家族や国民が可哀想だからスターと一緒に国を救おう」みたいに感じてしまい、感情移入ができず応援したいと思えなかった。
個人的には、アーシャは"願いを叶える魔法をずっと練習をしてきた見習い魔法使い"とかにしてくれたら、もう少し応援ができたかもしれない。
②必要のないオマージュがノイズになる、重要な描写が希薄になる
・オープニングで本を開く演出→昔のディズニー作品の定番のオープニング
・道中ミュージカル→ディズニー歴代声優が演じてる
・主人公の友達7人→白雪姫の7人の小人
・王様が握り潰す願い→過去のディズニー作品のキャラの願い
代表的なものだけでも上記にある通り、ウィッシュはオマージュが豊富にある。
100周年作品なので、確かにこれくらいやってもいいのかなと思いつつ、でもここで前提としてあげた「ワンスアポンアスタジオが強すぎる」問題が出てきてしまう。
本物の過去作品の輝きを見せられたあとだと、作品内でオマージュ程度で触れられても、かえってチープに見える。
また中には、「オマージュする必要があったのか?」みたいな疑問に思うオマージュもあり、主人公の友達は白雪姫の7人の小人のオマージュだが、7人もいる割に他にも登場人物が多いせいで、マジで7人の友達の名前と印象が残らない。
てか、なんなら公式HPのキャラ紹介にも7人の紹介が何故か載っていない。
ちゃんと記憶しているのは足が悪い女の子ダリア、奪われた夢を取り戻すために裏切った18歳の青年くらいなもんである。そのほかは、ちょっと怒りん坊がいたかなくらいで、あとはほとんどモブと同じ。
これだったら友達はダリアだけでも物語が成立した気はしていて、その分で王様の過去の掘り下げや、アーシャの願いについてもっと描写が欲しかった。
また、王様が途中で国民の願いを握りつぶして自分の力にするシーンがあるが、過去作品のキャラの願いのオマージュなので、そこで妻が苦い表情をしていたのがちょっと辛かった。
観客にも痛みを与えて臨場感を与えるための演出かもしれないが、個人的にはそんな思いをするくらいなら無くてもよかったと思う。
あと、ものすごい細かい点だけど、孫のアーシャが18歳で、おじいちゃんがディズニー100周年記念になぞったのか100歳なんだけどやたら元気だし、その年齢差はなかなか非現実的なんじゃ…とか視聴中に気になって、ノイズになってしまった。
③原点回帰するならラブロマンスがあってもよかった
最後はかなり個人的な意見だが、ラブロマンスがあった方が感動はできただろうなと思う。
100周年という節目ということと、「願い」をテーマにしているあたり、ディズニーは原点回帰を意識していたように思う。
女の子の主人公の割には本作品ではラブロマンスが一切なかったので、そういった意味でも過去作品と比べて登場人物の感情を感じづらい。
コンセプトアートでは、スターの人間姿も描かれていて、ラストシーンで人間姿で登場して切ない別れを演出されたら、スター側の気持ちももっと感じることが出来たように思う。
マスコットはバレンティノもいるので、十分そんなストーリーも考えられたと思うのだが、多分なんかしらの理由で没になってしまったのだろう。残念。
■よかった点
①「願い」というテーマが良い
上でぐだぐだ不満を述べても最終的にある程度の満足感を得られたのは、「願い」というテーマが良かったからだと思う。
僕はディズニーは夢を見せてくれる場所、夢を叶える場所、と捉えているため、まさにぴったりのテーマだった。
ラストシーンで、願いを込めてテーマ曲を合唱するシーンは感動したし、かなり印象に残った。
自分も挫けたときに、テーマ曲を思い出しそうだなと思ったし、自分の今後の人生でも糧の一つになりそうなテーマにしてくれたのは素直に嬉しい。
②テーマ曲はマジで最高
曲はわりかし全般的に好みだったが、とにかくテーマ曲は良い。
今この文章を書きながらも、Apple Musicでヘビロテしているくらいである。
吹き替えで歌ってくれている生田さんは今回の作品で初めて知ったが、情感のこもった歌唱がお見事。
ただ、僕は映画は吹き替え版でみたが、歌詞は字幕版の方が作品の内容に適切だと感じたので、曲だけでも字幕版も観てみることを推奨する。
③生田さん、福山雅治さんの演技と歌がよかった
歌唱力も良かった生田さんだが、アーシャの演技も感情がこもっていたし、声質も一切違和感がなく良かった。
ヴィランの国王マグニフィコを演じた福山雅治さんは、ミュージカル調の歌唱について「めちゃくちゃ難しかったですね」とコメントしてたらしいが、そんなことは感じさせずマジで器用にこなしていた(てか根本声が良すぎる)。
山ちゃんはいつも良いので割愛。
全般的にクオリティが高く、吹き替えで見て良かったと思ったし、良いキャストを選んでくれてありがとうという感じ。
ただ、吹き替えと字幕だと歌詞が一部意味が変わる部分があるので、別途ディズニープラスで字幕版を見てみてもいいかなと思う。
■終わりに
まとめると、ディズニー100周年おめでとう、ワンスアポンアスタジオを作ってくれてありがとう。
でも、今後の作品では、キャラクターに感情移入ができて感動できる作品を求めるよという感じ。
来年は東京ディズニーシーのファンタジースプリングスを全力で楽しもうと思っているので、多分これからもディズニーとの縁は全然続いていくと思う。
ディズニーのCEOのボブアイガーも「今後は楽しませる作品を作る」と言ってくれていることなので「ほんまか?」とちょっと疑いながらも今後も一応楽しみにはしてます。