「楽園の独裁に対する革命物語」ウィッシュ furuさんの映画レビュー(感想・評価)
楽園の独裁に対する革命物語
この作品は米国本国での興収や評価もいまいちと聞きます。しかも、有能なベテランスタッフが退職する中で制作されたようです。そのためか、アナ雪と比較するとどうしても動きに滑らかさが欠け、表現方法もいまいちな感じがしました。また、人間どころか全ての生き物までがいきなり仲良くしだすなど、何か浮いた感じがする描写すらもあります。
それでも、問いかける課題には重みがあり、賛否両論あるでしょうが、「夢」を売りとするディズニーのイメージに反して夢から醒める思いをすることに魅力を感じてしまいました。
「史上最恐のヴィラン」をふれこみとするマグニフィコ王ですが、まさに典型な独裁者であり、権力の集中と独裁が必然的に腐敗と暴走に至る姿が象徴的に描かれていました。
1989年のチャウシェスク、2011年のカダフィなどを連想せざるを得ませんでした。
最初は高い善意と理想を以て奮迅するも、冷酷非情な現実や多くの利害に直面し続けたためか、何でも制御しようと独断的になり、猜疑心の塊になる。しかもその力が強大過ぎることで周囲は自ら考えて行動することを放棄して依存的になってしまい、一層収拾がつかなくなる。これは王の悲劇物語に他ならず、「最恐」「ヴィラン」と切り捨てるべきではありません。
最終的には主人公をはじめ、人々が自らの思いに素直になり、それを強く持つことで何とか独裁を終わらせることができました。だが、本当に大変なのはいろいろと自力で築き上げなければならないこれからだと言えます。
現実のルーマニアやリビアのように、楽園に見えても自由が制限され、違反した者は容赦なく捕らえられ、密告も横行している。革命後は却って社会基盤が崩壊して悲惨なことになる、といった描写があれば説得力が出たのでしょうが、こうすればディズニーらしさが全くなくなってしまうから難しいです。
また、現実世界はマグニフィコどころではありません。現に、プーチニコ、キムニフィコ、シューキンペイコ、など、未だに多くの者が権力を意のままにふるっているのですから。