劇場公開日 2023年12月15日

「ディズニーに願いを」ウィッシュ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ディズニーに願いを

2023年12月15日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

単純

寝られる

ディズニー100年!
…を迎えたが、ここ近年のディズニーは不調だ。
2019年に過去最高の業績を叩き出したものの、コロナもあって尻すぼみ。
ただそれだけが原因とは言い難く、配信切り替えも拍車をかけ、作品的にもビミョーや不発が続く。2020年~2022年に於いて良かったのは『ラーヤと龍の王国』『ミラベルと魔法だらけの家』くらい。
そこに『ストレンジ・ワールド』ならぬ“ポリコレ・ワールド”だ。
昨年はその『ストレンジ・ワールド』と『バズ・ライトイヤー』が大コケし、ディズニーの低調に歯止めが利かない。
絶対にコケられない100周年の今年、4本の作品をお届け。
実写版『リトル・マーメイド』はまあ色々と。『マイ・エレメント』は口コミで人気になり。リブート版『ホーンテッドマンション』は今一つ。
2020年~2022年に比べ多少持ち直した感はあるが、それでもまだV字回復とは言い難い。
2019年や何をやっても愛された“黄金時代”は叶わぬ夢なのか…?
この願いよ、届け。
そんな中、遂に公開された100周年記念作。
ディズニーが威信を懸けて贈るのは…

ロサス王国。そこは、どんな願いも叶う国。
魔法使いである国王マグニィフコが、一年に一つだけ、人々の願いを叶える。
17歳の少女アーシャは王様の弟子入り希望。
その面接の日、アーシャは王様や王国の秘密を知ってしまう…。
叶えられる願いは、国の為になるものだけ。王様の独断で選ばれる。
それ以外は叶わぬ願いとして、王様が支配。願いを一人一人に戻し、自力で叶えるのも許されない。
それを知ったアーシャは夜空の星々に願う。すると空から不思議な力を持った“スター”が舞い降りてきて…。
が、王様はスターまでも我がものに。
アーシャは捕らわれたスターや奪われた人々の願いを取り戻す為、奮闘する…。

夢、勇気、ヒロイン、魔法(ファンタジー)、ミュージカル…ディズニーのTHE王道に直球で挑んできた。
あの名曲のタイトル。“星に願いを”。
ウォルト・ディズニーの格言。“信じれば、夢は必ず叶う”。
まさにそれを捻る事もなく。
この100年、様々な名作を生んできたが、その根底にあるものは永遠に変わらず。
100周年記念作だから、色々企画はあった筈。大ヒット作や人気作の続編など。
敢えてストレートで、オリジナルで。
ミュージカルもふんだんに。メイン曲『WISH』は覚えやすく耳に残り、新たな名曲になりそう。
新たなヒロインやヴィランも誕生。愛らしいサブキャラやユーモアや感動もあって。
これが、ディズニー。
ディズニー本来の魅力と願いを伝えようとした意気込みは潔い。

悪くはなかった。
が、ディズニーのベストではない。
魅力を並べ立てたその舌も乾かぬ内に言うのもひんしゅくを買いそうだが、やはりこれもディズニー作品に夢や願いや期待しているからこそ、言おう。
要素は充分なのだが、ありきたり過ぎた。
ましてや100年を飾るに相応しかったかと言われると、地味過ぎた。
一つの国の中だけで話が進んでいく。いやこれまでだってそういう設定はあったが、もっと設定以上の話の広がりがあった。
ヒロインもヴィランもサブキャラもド定番だが、これと言った個性や特色に欠けた。
キュートなスターや見た目は可愛いけど渋い声のヤギのバレンティノなど人気が出そうだが、それを狙って作られた感。これまでならもっとキャラが立ってた筈だ。
ヒロインのアーシャも行動力あって活発で、表情も豊かだが、昨今の例に漏れず多様性ヒロイン。別に私は人種差別者ではないが、昨今のディズニーのキャラを見ていると、もう純粋に白人キャラにする事はダメなのか…? 本作のアーシャが全然魅力ナシって訳じゃない。寧ろこの近年の中では好キャラヒロイン。『リトル・マーメイド』でも書いたが、“アンチ・ホワイトウォッシング”。それ自体が差別を助長しているような気も…?
吹替で鑑賞。生田絵梨花の声や歌は悪くなかった。
話題は王様の方。福山雅治も悪くなかった。
にしてもこの王様が本当に悪い奴。ディズニー久々の憎々しいヴィラン。その声(吹替)に福山雅治を起用するとはねぇ~。
面談シーンで、ちょっと他と浮いているアーシャに、「実に面白い」なんて言ったら面白かったんだけど。(←おバカな意見でスンマセン!)

何だか観てたら、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』に似た印象を受けた。
『君たちは~』も宮崎/ジブリの王道的作品だが、ベストではない。
それを良しと見るか、新味ナシと見るか。
でも、決定的な違いが。
『君たちは~』は宮崎の作家性が感じられたが、本作にはそれがない。
皆が好きそうなディズニーの王道要素を詰め込めばウケるだろう。そんな魂胆が見え見え。

それは数字にも表れた。
全米での初週の興行成績を見た時、私は驚いた。
OP3日間で1950万ドル。感謝祭を含む5日間で3170万ドル。
ランキング初登場3位で、リドリー・スコットの歴史大作『ナポレオン』に敗北。
幾ら何でもディズニーアニメなんだから次週は持ち直すだろうと思っていたら、前週比60%以上のダウン。
現時点でアメリカ国内でやっと5000万ドルって所で(世界累計は現1億ドル超え)、製作費2億ドルには程遠く…。
批評も鈍い。ディズニー歴代アニメーションでは下から数えた方が早い方。
100周年100周年と耳にタコなくらいバラエティーでも幾度もディズニーを特番し、『アナ雪』みたいに主題歌を押し出してドラマチック・ミュージカルとして番宣。
果たして日本ではウケるか…?

何にせよ、作品的には平凡、興行的には大コケ。
これまでの名作群を見た時のような満足感や幸福感は得られなかった。半分程度しか満たされず…。
ディズニー、100周年でやっちまったな!

これは皮肉…? 本作の設定と今のディズニーがリンク。
人々の純粋な願い。それを支配する王国。
我々がディズニー作品に期待する純粋な楽しみ。それが届かぬ今のディズニー。
皆、ディズニーが好き。あーだこーだついつい言ってしまうのも。
我々からディズニーへ、今一度素敵な夢と願いを。

追記。
短編の『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』は楽しかった。
お祭り気分なら、こちらを90分で見たかったかも…?

近大