劇場公開日 2023年11月10日

「神戸八重子役の東野絢香さん」正欲 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5神戸八重子役の東野絢香さん

2023年11月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

私自身、50を過ぎて自分の「醒(さ)め」をしみじみと感じています。もちろん、まだまだ欲がなくなることはありませんが、そのために何かを犠牲にするほど夢中になれることは殆どないような気がします。むしろ自分の惰性的な言動に嫌気が差すことはありますけど。
承認欲求だって勿論ないわけではなく、例えば映画のレビューだって共感を頂けるのはうれしいのです。しかし、そのためにフォローを返して「期待する」ことなどはしたくないので、(映画.comで)フォローしてくださっている方、フォローを返さずごめんなさい。
また、最近は言葉だけが独り歩きし、下手をしたら都合の良い解釈や上っ面で偽善とも取られかねない「現代的な考え方」が鼻につくことがあります。この作品でも扱われる「ダイバーシティ(多様性)」もその一つです。
例えば、一昔前までは「オタク」や「マニア」はネガティブな印象が強かったはずですが、昨今ではむしろ一目置かれる(この言葉に、「一目置く側」に対する欺瞞性も含んでいますが)存在となっており、SNS等で注目を集めるなどもはや、その「目的」すら曖昧になっているのではと疑わしいものさえあります。
とは言え、私は間違いなく「旧人類」にカテゴライズされる世代になりましたし、時代は絶えず変化していくわけで「老害」志向は抑え込む必要もあり、なおさらにひっそりと生きていく必要があると感じます。
さてさて、いつになったら作品のレビューになるのやらなので急展開ですが、
岸善幸監督、この方の作品に共通して感じる「愚直」とすら感じるキャラクター演出は、最初こそ取っつきにくさを感じるのですが、作品が進むにつれ心を奪われます。そして、この手の題材の場合、その問題意識を訴えたいばかりに、安易に対立構造を設定することで、単純で両極端に見えてしまうことがありますが、本作はその辺のバランスが振れ幅が大きいわりに実に絶妙です。さらに朝井リョウ作品の「妙(みょう)」と言える群像劇を巧妙な編集で違和感なく仕上げています。
そしてキャスティング、言うまでもなく皆さん素晴らしいのですが、まずは新垣結衣さん。私、この方に対する印象は殆ど持ち合わせなてなかったのですが、今作、特にセリフのない「表情による演技」が素晴らしいですね。言うまでもなくお美しいのですが、一見そう見えないキャラクター描写に、桐生夏月という人物に対する現実味を感じさせてくれます。
さらに、驚きの演技は神戸八重子役の東野絢香さんですね。実際、まだまだ落としどころが想像できずに半信半疑な中盤、東野さん演じる八重子の怒涛の言動の連続に心奪われ、何ならメインパートを喰う勢いに凄まじいものを感じます。
正直、内容的には共感できる部分が多くありませんが、どこにも否定する要素はなく、まさにダイバーシティな見方で判断するとこの上なく巧くまとまった良作だと言える作品だと思います。一見の価値あり。

TWDera