劇場公開日 2023年1月20日

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「「普通」の会議」ヒトラーのための虐殺会議 villageさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「普通」の会議

2023年2月5日
Androidアプリから投稿

残された議事録に基づく完全再現だと思う。
準備段階(配席や食事の準備、列席者への根回し)から、休憩そして裁決に至るまで、90分の会議の一部始終を描いた映画。舞台はただそれのみ。
各組織の管轄争い、利害の絡んだパワーゲームの側面はありながらも、大きな紛糾もなく、会議は紳士的で見事に議事進行されており、そういう意味でも一見「普通の会議」を見ているような気がした。だからこそ、その異常さが際立ち、見ていてゾワゾワ、ドキドキせずにはいられない。

議題は、いかに効率よく(コストをかけずに)1100万のユダヤ人を1人残さず抹殺するか。「大義」(ユダヤ人は不浄で争いの火種で消えるべき存在であるという考え)に基づく「任務」の遂行のために、数字上の計算と共に行われる議論には、規律と組織を重んじるドイツ人の特質も随所に感じられる。休憩中の会話やふとした表情に本音が感じられるようなシーンもあるが、「倫理」を持ち出して異議を唱える参加者もそもそもの大義に異議を唱えてはおらず、各人が自分に与えられた「任務」に徹しようと努めているようだ。

個人的に一番印象に残ったシーンは、終盤のアイヒマンの虐殺計画の説明を横で聞いている議長のハインドリヒが、満足そうな恍惚にも似た表情を浮かべているところだ。アイヒマンの官僚的な有能さ、ハインドリヒの優秀なリーダーとしての人格が、より一層不気味さを際立たせていた。

これは国民のため、子や孫のため、世界平和のため…本当にそうか?結局は、ヒトラーという狂人のためでしかないんじゃないの?
いざ戦時下の渦中にいたら、人間はこんな風になってしまうのだろうか。

village