「人物像がややステレオタイプ」福田村事件 天野空男さんの映画レビュー(感想・評価)
人物像がややステレオタイプ
関東大震災秘話とも言うべき悲劇を描いていて見応えは充分。
ただ、人物の描き方がややステレオタイプに感じる。
監督は「普通の人が豹変する恐ろしさを描きたい」と言っておられたが、映画の中で凶行に走るのは、普段から「ネトウヨ」的言辞を弄する連中や、性格に難のあるような人物ばかり。
逆に、冷静で普段から内省的であったり開明的な人物は虐殺を止めようとする。
これでは「普通の人が豹変する」のでは無く、普段から問題の多い人物が事件を起こしているようにしか見えない。
普段勇ましいことを言っておきながらいざとなったら怖くて逃げ出す人物や、普段から開明的な人物が疑心暗鬼で凶行に走る姿を描くべきだったと思う。
その意味で、犠牲者の薬売りがペテンをしたり、夫の帰りを待ちわびるおとなしい若妻が凶行の先鞭をつけるところは良かった。
また、正義感溢れる女性新聞記者が登場するが、周りの混沌ぶりに比べ、浮いた存在になっているように感じた。
被災者の中には邦人・鮮人の区別無く火事場泥棒を働いた者も実際居たのだから、朝鮮人暴動を否定する彼女の前に、実際に悪事を働いて捕まった朝鮮人を一人でも登場させ、『もしかして暴動説は本当だったのか?』『自警団は必要なのか?』と迷わせ、悩み傷つきながらも彼女自身の体験を通じて暴動がデマであることに辿り着けば、人物造形に深みが出たと思う。
映画では「報道の正義」を振りかざし、最初からおのれの信念に一片の疑念も持たない純粋さに危うさを感じてしまった。
映画を見る限り、登場人物の善悪が明瞭過ぎるのが気になった。
とはいえ力作だし、「朝鮮人大虐殺は無かった」なる言説が大手を振り、「私人逮捕」YouTuberが閲覧数を稼いだりする昨今、必見の映画だと思う。
確かに。あのモガの記者は人物描写のなかで全く印象に残らなかった。村人の人となりが説得力ある中で彼女だじけは描き方が雑というか正直いてもいなくても良い存在だった気がする。