「事件は過去だが今向き合うべき佳作」福田村事件 撃たれる前に撃てさんの映画レビュー(感想・評価)
事件は過去だが今向き合うべき佳作
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関東大震災という当時未曾有の大惨事において混乱のドサクサに紛れて起こった惨劇。
事件当時より遥かに情報伝達が早い現代であるからといって過去の事件としてただ胸を痛めて鑑賞すればいいという作品ではない。
物語は最初から閉鎖的な村社会、差別、暴力を、登場人物達は映画だからと綺麗な言葉ではなく直接的な言葉で表現しあっている。雑な言葉を使わせてもらえばひたすら胸糞が悪い。
この映画において加害者は少なくとも映画の中では普通の人だ。赤ちゃんや幼児まで殺してしまうような異常性を最初から剥き出しにしてるような人物は1人もいない。しかし一度殺戮が始まると相手が子供だろうが何度も竹槍を突き刺す。普段何気なく暮らす我々にそうならないという絶対的な何かが果たしてあるのだろうか。
私はこの作品に1番戦慄したのはそこである。
理性が感情を抑えることができないのではないかという不安である。
永山瑛太さん演じる新助にノイローゼ気味の女性が棒で無機質に殴り、新助は絶命。これで日常は壊れてしまい後は不安、不審の波に流されて大量惨殺。穏健派の村長も何も言葉を発せられない。ただ雑な暴力への本能的な恐怖。これを抑えられる理性が本当にあるのだろうか。
惨劇の直接的、間接的となった災害、デマ、差別、世相、そして集団心理。これらは全て現代においても当時と何ら変わらない危険性を伴っている。だからこそ他人事ではなく自分が加害者にも被害者にもなり得る可能性を感じながら鑑賞しなければならない。
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